307.ザンビリオン動揺
「ど、どういう事だ? 確かに奴をロックオンし、ビームを放ったはず!」
坂野リョウの声が動揺していた。
「マリ! いったい何が起こったんだ?」
索敵担当の胸部パイロット、リョウの妹マリが、計器を操作してたった今の状況を分析した。
「座標が……、ずれてる? 兄さん、ロックオンの前と後で、あいつの位置がずれているわ」
「つまり、どういう事だ?」
「簡単に言えば、横に動いてかわされたのよ!」
「一瞬、あいつの姿がぶれたような気がしたが……、そういう事か。あいつはそんなに高速で動けるというのか?」
「どうやら、そうみたいね」
マリの言葉が終わるか終らないかのタイミングで、ガイチュラの姿が消えた。
次の瞬間、ガイチュラの姿がザンビリオンの顔前至近距離に現れた。
「うわっ!」
「きゃっ!!」
意表を突かれ、思わず声を上げる坂野兄妹。
だが、ザンビリオンは、ガイチュラ出現とほぼ同時に右足を蹴り上げていた。
ガイチュラは、再び坂野兄妹の眼前から消えた。
ザンビリオンの下からのキックをもろに受け、上空高く蹴り飛ばされたからだ。
「な、なんだ? いったい何が起こっている」
「まさか……、今のハヤト君?」
そう、今の蹴りは、防御担当の腰部パイロット、ハヤトが放ったのであった。
「リョウ先輩、今です。もう一度ビームを!」
ハヤトはマリの問いに答える代わりに、リョウにビーム攻撃の第2弾を促した。
「お、おう!」
再びビームの発射スイッチを押すリョウ。
ザンビリオンは、蹴り上げられてまだ上昇中のガイチュラに、今度は正確にビームを命中させた。
ガイチュラは体勢を立て直す事ができず、今度は的になるしかなかった。
ザンビリオンのビームは、ガイチュラの胸の甲殻を焦がし、亀裂を走らせた。
「リョウ先輩! 効いてますよ。同じ所にもう1回食らわせれば、あいつの体を貫けます」
「よし、もう1回、ビームだ!」
リョウは発射スイッチを押そうとした。
だが、上空高く見えていたガイチュラの姿が再び消えてしまった。
またも高速移動したのだ。
「消えた!」
「ど、どこなの?」
慌てる坂野兄妹。
マリは、レーダーでガイチュラの影を追った。
「後ろ!」
ガイチュラはザンビリオンの後方に出現していた。
ハヤトはザンビリオンの後ろ回し蹴りを放ったが、ガイチュラはザンビリオンの脚の長さよりわずかに遠い距離に居た。
さきほど蹴りをくらって、学習したのだろう。
おそらく、蹴りの間合いまで入ってくる事は2度とあるまい。
ガイチュラの羽ばたきが変わった。
耳障りな大音響が、辺り一帯を支配した。




