305.ザンビリオン索敵
ロボット工学博士、坂野剛造が開発した、陸海空対応戦闘用スーパーロボット ザンビリオンは、太平洋上空でセミ型ガイチュラと対峙していた。
現在、ザンビリオンは空中戦体形をとっている。
空中戦仕様時のパイロットは坂野リョウ(高3)だ。
「マリ、奴の大きさはどれくらいだ?」
リョウは、ザンビリオン頭部のコクピットから、胸部コクピットに座る妹の坂野マリ(高2)に内線通話で尋ねた。
「ざっと100メートルはあるわね。大きいわ。ザンビリオンの倍以上よ」
ザンビリオンにおいては、頭部コクピットのパイロットが、主操縦と攻撃を担当する。
胸部パイロットは、副操縦と索敵。
だからマリが、ガイチュラの体長を計器で計測していたのだ。
「戦いますか? もし、そうなら俺が全力でガードしますよ。ただ、燃料も心配ですよね」
ハヤト(高1)がリョウに内線通話を送った。
腰部パイロットは、副操縦と防御を担当する。
ハヤトが「ガード」と口にしたのはそのためだ。
「父さん、指示を頼む」
リョウは、研究所にいる父親の剛造に無線通信を送った。
だが――。
返ってきたのはものすごいノイズだった。
「ど、どういう事だ?」
戸惑うリョウ。
「兄さん、あいつのせいよ。あいつの羽の振動が、電波を妨害しているの」
マリが状況を説明した。
見ると、確かに、眼前のセミ型ガイチュラは、羽を激しく振動させて、上空にホバリングしていた。
飛ぶための羽の振動がたまたま電波を妨害しているのか、あるいは電波妨害の効果をふまえたうえでガイチュラが意図的に羽を振動させているのかは知る由もない。
「く……、となると、俺たちで判断しなければならないのか」
戦うべきか、逃げるべきか。
リョウは判断に迷った。
「兄さん、戦おう。これまでの訓練の成果を見せる時よ」
マリは迷う兄に戦いを促した。
「俺は、先輩お二人に従いますよ」
3人の中でいちばん年下のハヤトは、判断を坂野兄妹に委ねた。
もし、ザンビリオンがガイチュラに勝てないとしても、能力に覚醒している自分が乗っている以上、最悪でもリョウとマリの命は守れるだろうとの計算がハヤトにはあった。
また、おそらく自分の兄弟姉妹たちからのサポートがあるだろうとの信頼があった。
「――よし、戦おう。これはザンビリオンの初陣だ。初陣で逃げたとあっては、今後に悪い尾を引く気がする。ここは、あのセミの怪物を倒して、幸先のいいスタートにするんだ」
リョウは決断した。
「マリ、ハヤト、行くぞ!」
「オッケー、兄さん」
「了解」
リョウの決意に、マリとハヤトも応じた。