304.ザンビリオン遭遇
「でも、反応があるの。見て」
リョウ(高3)もハヤト(高1)も、マリ(高2)が転送してきたレーダーのデータを各々のコクピットで見た。
「確かに反応がありますね、先輩」
ハヤトも飛行物体の存在を認めた。
「もうすぐ、肉眼で確認できる距離まで接近するぞ」
20秒もしない内に、ザンビリオンは、その飛行物体の正体と遭遇する事になった。
巨大な羽。
太い体。
細長く尖った鋭利な口。
巨大なセミ型ガイチュラだった。
「ガ、ガイチュラだ!」
リョウが驚愕の声を上げた。
対ガイチュラ用戦闘ロボット兵器ザンビリオンに搭乗しているとはいえ、リョウもマリもハヤトも今日が初飛行だ。
シミュレーターで訓練を積んできたとはいえ、実戦経験は無い。
もっとも、そのシミュレーター訓練も、リョウとマリに比べれば、ハヤトの場合ほとんど無いに等しかった。
「リョウ、落ち着け。ザンビリオンは強力なロボットだ。ガイチュラ相手でも引けを取る事は無い」
坂野剛造が息子を落ち着かせた。
「にーに!」
アオイ(大1)がツヨシ(大2)を見た。
「うむ」
ツヨシもうなずく。
ツヨシを先頭に志武兄弟たちは部屋を出ようとした。
「どちらへ行かれるのです?」
所員の1人が、志武兄弟たちを止めた。
「いや……、ハヤトが……、弟の事が心配なので……。せめて、直接空を見たいと思いまして」
ツヨシが所員に説明する。
「そうですか……。お気持ちはお察しします。では、研究所の屋上にご案内しましょう。そこからなら空を見る事ができますよ。でも、ザンビリオンを肉眼で見る事はできないと思います。かなりここからは遠い所を飛んでいますので」
「いえ、それで結構です。お願いできますか」
志武兄弟たちは所員に案内され、研究所屋上へ出た。
屋上端の手すりまで行き、ザンビリオンの居るであろう方角に目をやる。
だが、その姿を捉える事はできなかった――アカネを除いては。
「アカ姉、どうなの?」
キイロ(中2)が尋ねる。
「ザンビリオンとガイチュラはまだ睨み合ったままよ。場所は太平洋上空。下は海ね」
「キイロ、俺たち全員でそこまでテレポートできるか?」
「多分、大丈夫だと思う」
聞かれたアカネは、ツヨシに答える。
ファイタスの話によれば、かつて異世界に居た時のキイロは、兄弟全員を一度にテレポートさせられる力をもっていたという。
この世界で能力が覚醒してから、それをやった事は無いが、多分できるだろうとの自信がキイロにはあった。
「アオイ、テレポートした先は海だ。俺たち全員を海上の空間に保持できるか?」
「やってみせるわ。でも、そっちに集中する事になるから、私はガイチュラを攻撃できなくなるけど」
「アオ姉、攻撃ならあたしたちがやるから大丈夫だよ」
「海の上なら、水を操る俺のもんだ。任せておけ」
モモコ(小2)とヒロシ(小4)が、アオイに応えた。
「ザンビリオンのサポートをするにあたって、俺たちの姿を見られるわけにはいかない。ミドリ、俺たち全員の姿を消してくれ」
「テレポートと同時にそうする」
ミドリ(小5)もツヨシの指示に応えた。
「よし、後は行ってから考えよう、みんな、手をつなぐんだ」
志武兄弟11人は手をつないだ。
「みんな、行くよ!」
キイロの声を研究所の屋上に残し、兄弟たちの姿は消えていた。