303.ザンビリオン飛翔
志武兄弟たちは所員に別室に案内された。
複数のモニターを通して、ザンビリオンの外観、そして3つのコクピット内の様子を知る事ができた。
第1コクピットにはリョウ(高3)。
第2コクピットにはその妹マリ(高2)。
そして、第3コクピットには彼ら志武兄弟の4番目、次男ハヤト(高1)の姿があった。
3人ともヘルメットをかぶっている。
「ザンビリオン、発進!!」
リョウの声が響いた。
ザンビリオンが両腕を広げた。
胴体が縦、広げた両腕が横で、ちょうど十字のようなシルエットとなる。
ザンビリオンの前腕部(手首から肘)、上腕部(肘から肩)にそれぞれ1基ずつ、左右で計4基のロケットエンジンが搭載されている。
それを推進力としてザンビリオンは飛行するのである。
人が飛行機の真似をする時のようなポーズで、ザンビリオンは空を飛ぶのだ。
ゆっくりとザンビリオンは離陸し始めた。
「リョウ、マリ、ハヤト君。今回はテスト飛行のみだ。初飛行なので、焦らずゆっくり飛んでくれればいいぞ」
坂野剛造の声が志武兄弟たちの居る部屋にも響いた。
3つのコクピット内にもそれぞれ届いている事だろう。
爆煙を格納庫に満たしながら、ザンビリオンはゆっくりとその姿を外へ現す。
坂野研究所の裏山の中腹が開いた。
そこがザンビリオンの秘密格納庫になっていたのだ。
轟音を上げ、ザンビリオンは大空高く飛び上がった。
「リョウ、マリ、ハヤト君。調子はどうだ?」
坂野剛造が問う。
「順調だよ、父さん」
「私も」
「俺も大丈夫です」
ハヤトにも問題は無いようだ。
既に高速能力に覚醒し、飛行能力も有しているとはいえ、やはりハヤトの事を兄弟たちは心配していた。
異常無しというのは何よりだ。
「リョウ、10分ほど飛んだら帰還するんだ。テスト用なので、ザンビリオンには、それほどエネルギーを入れていないのでな」
「了解、父さん。じゃ、ちょっと行ってくる」
ザンビリオンの姿は、たちまち見えなくなった。
肉眼では研究所からその姿を確認できない。
「アニキ行っちゃったねーー。アカ姉、見える?」
チャコ(年中)が、アカネ(高2)を見上げ、やはり小声で聞いた。
「見えるよ。ハヤトはちゃんとやってる」
アカネがチャコを抱き上げ、耳元でそっと言った。
物を透かして見る透視、そして遠くの物を見る千里眼の能力をもつアカネは、この室内からでもザンビリオンの動向を窺い知る事ができた。
「父さん。じゃあ、そろそろ研究所に帰還する」
リョウからの通信が入った。
志武兄弟たちが待機するこの部屋にも通信の全ては聞こえるようになっている。
「兄さん、待って」
マリが何かに気付いた。
「レーダーに反応。飛行物体よ」
「なんだって? ザンビリオンのテスト飛行をするから、この空域には航空機は入ってこないはずだろ?」
いぶかるリョウ。




