302.ザンビリオン発進
「まあ、残酷な事実をつきつけるようだが、強いのはおそらくバグストライカーの方だろう」
と、やはり小声でツヨシ(大2)。
「だよな。やっぱ、ファイタスの居た世界の方が、俺たちが今居る世界より全体的に科学技術が進んでいるんだ。となれば、ロボットの性能だって上だろうさ」
コウジ(中1)も小声で冷静に分析する。
「んじゃあさ、ザンビリオンがガイチュラと戦っても勝てないんじゃないの? バグストライカーじゃないと」
「「しっ!」」
モモコ(小2)が普通の声で言うものだから、両脇からアオイ(大1)とアカネ(高2)が妹の口をふさいだ。
「だめよ、モモコ。『バグストライカー』という名前を、他の人は知らないんだから」
「そうよ、私たちは何も知らないふりをしてないと」
「そうよ、だめよ、モモちゃん」
アオイとアカネの口調を真似て、最後にチャコ(年中)が付け加えた。
「あ、動き出すみたいだよ」
ダイゴ(年少)が天井を指差した。
ザンビリオンの格納庫の頭上が開き始めたのだ。
太陽光が差し込み始めた。
「わあ、まぶしい」
ミドリ(小5)が額に手をかざす。
「でも、ねえね、エネルギーの補給にいいじゃん」
「「しっ!」」
またまたモモコが普通の大きさの声で言うものだから、アオイとアカネが両脇から口をふさいだ。
光を操る能力者であるミドリは、自身の姿を透明にしたり、体から光線を放ったりする事ができる。
放つ光線の源は、太陽光だ。
体内から無尽蔵に光エネルギーが湧き出るわけではない。
太陽光を浴びた時、ミドリはソーラーバッテリーのようにその光エネルギーを体内に蓄積させるのだ。
モモコが言ったのは、その事である。
「まあまあ。今のモモコの言葉は、仮に誰かに聞かれたとしても、意味は解らないだろうさ」
ツヨシが、アオイとアカネの行動に苦笑いした。
「志武兄弟の諸君は、格納庫から出てくれ。これからザンビリオンが発進する。ロケット噴射の煙が立ち込めるし、ものすごい音がするぞ」
坂野剛造の声が格納庫内に響いた。
志武兄弟の立ち並ぶデッキより少し上方の壁からブースが突き出ている。
ガラス越しに、マイクを握る坂野剛造の姿が見えた。
「じゃあ、出ようか。歩いて」
キイロ(中2)がわざわざ「歩いて」と言った。
彼ら兄弟が手をつなぎ、キイロの瞬間移動能力を使えば、全員あっという間に格納庫から出る事ができる。
だが、研究所の多くのスタッフ達の中でそれをやったらたちまち大騒ぎだ。
彼らが、その「能力」を使うのは、ガイチュラと戦う時ほか、どうしても使わなければならない、やむをえない時だけだ。