29.大きくなったけど
ツヨシ(大2)とアオイ(大1)はバスタブに浸かっていた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「もう好きに呼んでくれ」
「私たちみたいに、大きくなったのに兄妹でいっしょにお風呂に入っている人たちってどれくらい居るのかな?」
「さあな……。時々、本やテレビで、『珍しい家族』扱いで取り上げられるからゼロではないんだろうが……、まあ、少数派だろうな」
「その人たちって、言ってみれば日本のナチュリストファミリーだよね」
「まあ、そういうところかな」
「私たちは、チャコやダイゴみたいにまだ幼い弟妹がいるから、どうしてもいっしょにお風呂に入るもんね」
「ああ。俺とアオイとだって幼い頃からいっしょに入っていたし。結局どの兄弟姉妹ともいっしょに入っているから、これが俺たちにとっては自然なんだ」
「でも、タダシやダイゴはともかく、お兄ちゃんと入っているとは外では言わないよ。いろいろ面倒だもんね」
「ま、それが無難だろ」
「あれ?」
アオイが浴室の窓から日が射してきたのに気付いた。
アオイはバスタブ内で立ち上がり、窓を少し開けて外を見た。
「なんだか晴れてきたみたい」
「良かったな。帰りは、みんな自分で帰ってきてくれるだろ」
「迎えに行って濡れちゃったら、またお風呂に入らなきゃならないもんね」
「これ以上風呂に入ったら、しわくちゃになっちゃうよ」
ツヨシが、しわしわになってきた手のひらをアオイに向けた。
「ほとんだね」
アオイも同様にしわしわになった手のひらをツヨシに向け、その手に重ねた。