295.風よ光よ4
コウジは女の子を見た。
おかしくてしょうがないという様子で笑っている。
「ああ、おもちろい。人間ってバカね。ちょっと困った様子を見せると、直ぐワナに引っ掛かる……」
「おまえは……?」
コウジは身構えた。
「3匹まとめてあたちのゴハンにしようと思ったんだけど……、とりあえず2匹か。ま、お兄ちゃんもすぐに動けなくしてあげるけどね」
女の子がそう言うと、突然女の子の衣服が内側から破られた。
そして、無数のトゲが飛び出してきた。
髪の毛も逆立ち、まるで体中がハリネズミのように鋭利なトゲでおおわれた。
「おまえ、ガイチュラか!?」
そう、この女の子は毛虫型ガイチュラだったのだ。
体格は人間の3~4歳児のサイズのままだが、体中無数のトゲに覆われた毛虫型ガイチュラは、そのトゲをブウンという音と共に振動させた。
トゲの間から煙のように白い粉が立ち昇ってきた。
「コウジ逃げて! その粉を浴びちゃいけない」
キイロが叫んだ。
「く……、アネキを置いて行けるかよ!」
コウジは迫り来る粉を振り払おうと腕を振った。
すると、ものすごい突風が吹き、粉を毛虫型ガイチュラの方へ追いやってしまった。
「これは……?」
戸惑うコウジ。
だが次の瞬間、キイロもコウジも悟っていた。
風を操るコウジの能力が覚醒したのだと。
「たまたま風が吹いたようね。もう1回!」
事情の解っていない毛虫型ガイチュラは、再び人間の体をしびれさせる白い粉をトゲを震わせて放った。
コウジは再び腕を振った。
今度は風を吹かせようとの明かな意志を込めて。
先程よりも強い風が、コウジの腕の振りから放たれた。
雑木林の木々がざわざわと揺れた。
毛虫型ガイチュラは、そのあまりの風速に吹き飛ばされ、ごろごろと10メートルは転がった。
「な、な、なに? なにちたの?」
何が起きたか解らないといった様子で毛虫型ガイチュラは立ち上がった。
倒れている少年と、膝立ちで動けない少女。
身構えている少年が1人。
「おまえか! おまえがなにかちたのね?」
この、身構えている人間のオスが何かしたらしいという事が、毛虫型ガイチュラにも察せられた。
「コウジ、気をつけて!」
「アネキ、シュウトを連れてテレポートして逃げてくれ」
「コウジを置いて行けないよ!」
先程コウジがキイロに言ったのと同じ言葉をキイロは返してきた。
「3匹まとめてここに居てくれた方が、あたちは都合イイけどね!」
毛虫型ガイチュラは、トゲの1本をコウジに向けて矢のように発射した。