293.風よ光よ2
結果的にシュウトの望みどおり、キイロ、コウジ、シュウトの3人で帰ることになった。
「あ、キイロさん、カバンかわりました?」
「え、よく分かるね」
キイロが先日まで使っていたアオイからのおさがりのカバンは、ガイチュラに切り裂かれてしまった。(275話参照)
今、キイロが使っているのはアカネからのおさがりだ。
「いやあ……、なんとなく。あ、そのカバンにさがっているマスコット、カメンダーレディですよね。キイロさん、特撮見るんっすか?」
カメンダーレディは、姉アカネが遊園地のヒーローショーのアルバイトで演じているキャラクターだ。(65話参照)
「姉がヒーローショーでカメンダーレディのアルバイトしてるんだ。このカバン、姉のおさがりなの。だからマスコットも付けてきちゃった」
「へぇーー、そんなんすかあ。いやあ、キイロさんに似てきれいなお姉さんなんでしょーねー。そういや、前のかばんはどうしちゃったんですか」
「ああ、あれ。あれは……」
「あれは?」
「――実はこないだ、ガイチュラに襲われちゃってね。その時だめになっちゃったの」
「え、まじっすか!? ――って、またまたぁ~~。キイロさん、冗談キツイっすよーー」
もちろん、シュウトが信じないだろうという事は承知の上で、キイロも言ったのだが。
「それにしても、ガイチュラこわいっすよね。怪獣みたいにでっかいのやら、人間に化けてるのやら、いろんなのがいるらしいし」
「そーだよねーー」
「ん? なんか聞こえないか」
それまで黙っていたコウジが口を開いた。
「なんか聞こえるか?」
「そういえば……」
シュウトとキイロも耳をすます。
泣き声だった。
「こっちだ」
コウジが横道に入った。
キイロとシュウトも続く。
その先は雑木林になっていた。
「あの中からだね」
「小さい子みたいっすね」
雑木林に1歩踏み込むと、声の主は直ぐ見つかった。
チャコやダイゴと同じぐらい。
3~4歳の女の子だった。
「どうしたんだい?」
コウジがしゃがみ、女の子と同じ高さの目線になって話しかけた。
「あれ」
女の子は泣きじゃくりながら上を指した。
赤い風船が木の枝に引っかかっていた。
高さ5~6メートルはありそうだ。
「風船が引っかかっちゃったんだ」
見上げながらキイロは思った。
自分のテレポート能力を使えば、あの風船を取るのは簡単だ。
しかし、シュウトの前で超能力を使うわけにはいかない。
この小さい女の子はごまかせても、シュウトはごまかせまい。
話はたちまち広まって大騒ぎになるだろう。
では、自分が木を登って取ってやるか。
コウジと女の子だけだったら構わないのだが、シュウトもいる前でスカートで木登りをする気にはなれなかった。
 




