290.見えないチカラ4
「きゃああああああっ!!」
女児の悲鳴が聞こえた。
声のした方に振り返るミドリとヒロシ。
小学1年生くらいの女の子をもう1体のガイチュラが抱え込んでいた。
6本の手足。
人でいえば両腕に当たる前脚は、巨大なスコップのようになっており、先端には何本のもの鋭い爪を生やしている。
まるでモグラのようなその姿。
「おけら?」
ミドリの言葉どおり、それはケラ型ガイチュラだった。
近くの地面に穴が開いている。
地中に潜んでいたのだろう。
「けら、けら、けら……。おまえら武器を捨てろ。さもないと、この人間のメスの子どもの命は無いけら」
ケラ型ガイチュラは笑った。
「捨てろったって、もともと武器なんか持っちゃいないぜ」
ヒロシはピストルの形にしていた両手をパーにして挙げた。
「むう? 今、水鉄砲のようなものを射ったではないか! どこに隠したけら?」
カニ型ガイチュラが、ヒロシに歩み寄ってきた。
「コイツは、指先から水を放ったのだがに」
「なに? 人間にそんな事をできるやつがいるのかけら?」
「情報では、この世界に、そんなドライバウターみたいな奴らはいなかったがに」
ガイチュラの会話を聞いてヒロシは思った。
「ガイチュラにドライバウター。そして俺のこのチカラ……。やっぱりファイタスの話は本当だと思うしかないぜ」
両手を挙げたままの姿勢で、ヒロシはある事に気付いた。
それはもしかしたら、この形勢を一気に逆転できるかもしれないことだった。
「退治屋など、存在は無用! その水鉄砲のガキを倒すけら!」
「言われるまでもないがに。このワシのハサミで……、む?」
挙げたヒロシの両手を、その巨大なハサミにかけようとして、カニ型ガイチュラもまた気付いた。
ヒロシと同じ事に。
「い、いないがに?」
「なにがだけら?」
ケラ型ガイチュラはまだ状況を把握していない。
「もう一匹居たメスの人間の子どもがいないがに!」
「なんだと!? げらああ!」
次の瞬間、ケラ型ガイチュラは額を撃ち抜かれていた。
空間のある一転から突然、光線が発射され、それが命中したのだ。
のけぞるケラ型ガイチュラ
人質になっていた女の子が宙に放り投げられる。
その女の子が宙で停止した。
女の子を抱きとめている者の姿が徐々にあらわになってきた。
ミドリだった。
「な、な、なんだ! どういうことだがに?」
その疑問の答えをカニ型ガイチュラが知る事は永遠に無かった。
女の子を抱いたまま、ミドリが親指だけをカニ型ガイチュラに向けると、その指先から光線が放たれ、先程のケラ型ガイチュラの時同様、一撃で額を打ち抜いたからである。
光線が発射される瞬間だけ、ミドリの体は透明になり、再び元に戻った。