281.剛力と念力1
翌日も志武兄弟達は、それぞれ登校、登園して行った。
ガイチュラが出現したとはいえ、家に閉じこもっているわけにもいかない。
こんな時こそ、普段通りに生活すべきなのだ。
各自、不安もあったが、ちょっとした安心材料もあった。
12人の内、8人が超能力に目覚めた事だ。
彼らならもしガイチュラに襲われたとしても、そう簡単にはやられないだろう。
コウジ、ミドリは超能力に目覚めていなかったが、中学校にはキイロが、小学校にはヒロシ、モモコ、タダシがいる。
いざとなれば、彼らがコウジとミドリを守るだろう。
問題は――
「ねえ、にーに。私たちがガイチュラに襲われちゃったら、どうしよう」
大学のキャンパス内を並んで歩きながら、アオイがツヨシに聞いた。
そう、問題は大学生のツヨシとアオイだ。
彼ら2人は超能力に目覚めておらず、そして大学には超能力に目覚めた兄弟がいないのである。
「まあ、その時は……、俺達も超能力者になっちゃうんじゃないか? みんなみたいにさ」
ツヨシはつとめて明るく答えた。
「だといいけど……、あ、別に超能力者になりたいってわけじゃないよ」
「分かってる。けど、もうこういう事が起こってしまった以上、俺達だけみんなと違うっていうのもな。俺は超能力者になってもいいと思っている――と、いうか、ならなければいけないって気がしてるぜ」
「私も……、本当はそうなのかな」
「長男や長女が、弟や妹達にいつも守ってもらわなければならないというのが、単純に逆だろって気がするからな」
「うん、そうだよね」
185cmのツヨシと170cmのアオイが並んで歩くと、長身の美男美女のカップルだ。
兄妹だが顔が似ていないので、知らない人が見たら単純に恋人同士と思うだろう。
ツヨシとアオイは1つの教室に入った。
学生達の眼下に講師が来て講義をする、扇型の、席が階段タイプになっている教室だ。
上から3分の1ぐらいの高さの席に並んで座るツヨシとアオイ。
その日の教授が入ってきた。
「あれ? にーに、いつもの先生じゃないね」
「そうだな。代講(代わりの講師が講義をする事)かな……?」
男性で年齢は30歳ぐらいか。
がっしりとした体つきで、身長は175ぐらいだろう。
オールバックに髪をなでつけている。
スーツを着ていなければ、大学の講師というより、格闘家のようだった。
男はマイクに向かって話し始めた。
「皆さん、はじめまして。私は本日、代わりに講義を致します、コオロギと申します」
教室が少しざわついた。
「あ、コオロギというのは本名ですよ。興味の興に、キヘンにお風呂の呂と書いて興梠と読みます。珍しい名前ですが、声優さんにもいますよ」




