27.名前で呼ぶね
日本での日常に戻った。
その日の朝は大雨だった。
通学の際、高校生のアカネ(高2)とハヤト(高1)は普段はバスで駅まで行く。
また、チャコ(年中)とダイゴ(年少)は歩いて幼稚園バスの待ち合わせ場所に行く。
その日はバスを待っているだけでずぶ濡れになりそうだったので、ツヨシ(大2)が車でアカネとハヤトを駅まで送っていった。
この日は大学が休講だったのだ。
いったん帰ってきてからは、チャコとダイゴを車で直接幼稚園まで乗せていった。
ツヨシが幼稚園から戻る頃には、さらに雨が激しくなった。
車を降り、玄関に入るまでのわずかな時間だけで、ツヨシは頭からずぶ濡れになってしまった。
さっそく濡れた服を脱ぎ、ツヨシは風呂に入った。
「兄さん、いい?」
少しするとアオイ(大1)が入ってきた。
「どうしたんだ?」
「えへへ、背中流してあげようかなって思って」
「珍しいな」
「そんな事ないでしょ」
アオイは、スポンジにボディシャンプーをつけると、兄の背中を流し始めた。
「ねえ、ツヨシ兄さん」
「え、ツヨシ兄さん?」
「普段は『兄さん』としか呼ばないから、たまには名前を付けて呼んでみようかと思って」
「そうか。確かにアオイとアカネとハヤトの3人は、俺の事を単に『兄さん』と呼ぶな」
「うん、その3人には『兄さん』はツヨシ兄さん1人だし」
「それより下の子たちは、区別するために、必ず『ツヨシ兄さん』とか『アオイ姉さん』とか名前を付けて呼ぶからな」
「そうだね。私の事を単に『姉さん』と呼ぶのはアカネだけだよ。後の子たちはみんな『アオイ姉さん』」
「うん」
「考えてみたら、私いちばん年が近いのに、兄さんの事『ツヨシ兄さん』て呼んだ事なかった。だから何だか呼んでみたくなっちゃって」
「アオイから『ツヨシ兄さん』とあらためて呼ばれるのはなんだかくすぐったい感じだよ」
「そう? こんなふうに?」
アオイは、ツヨシのわきの下をくすぐり始めた。
「ぎゃはははっ、こ、こら、やめろ!」