273.水と炎と瞬間移動1
「ただいま」
キイロ(中2)が帰宅すると、どやどやと弟妹達が迎えに出て来た。
「あれ、みんなでどうしたの?」
「アネキ――。アカ姉とアニキの高校がガイチュラに襲われたんだよ」
ヒロシ(小4)が言った。
「ええ!? それで2人は?」
「にーにとアオ姉が車で高校に迎えに行ってるの。あと……」
「あと?」
「タダシとチャコとダイゴが外からまだ帰ってこないのよ。コウちゃんが捜しに行ってるんだけど……」
なるほど、ミドリ(小5)の言う通り、キイロを迎えに出てきたのは、ミドリ、ヒロシ、モモコ(小2)の3人だけだった。
「アネキ、どうしよう?」
「ミドリ、心配ないよ。コウジが捜しに行ってるんだし、タダシ、チャコ、ダイゴは大丈夫。私達は家でみんなを待ってよう。ここで、私達まで家から居なくなったら、にーに達が帰ってきたとき、きっと心配するから」
キイロはミドリの頭に手を置いた。
「私、汗かいちゃったから、お風呂入るわ。――一緒に入る人ーー?」
キイロは雰囲気を変えようと明るく言ったのだが、
「……」
弟妹達の顔は曇ったままだった。
「そんな気分じゃないか。あれ?」
キイロは天井に何か動く物を見つけた。
「なにアレ? ゴキブリ……いや、カマキリだ!」
言われて、弟妹達も天井を見上げた。
いつ、どこから入ってきたのだろう?
大きなカマキリが天井に逆さに止まっているのである。
「うわ、ずいぶんでっかいカマキリだな」
「それにあの模様……。なんだか、気持ち悪い」
モモコの言葉の通り、その体長20cm近くはありそうなカマキリには、まだらの薄気味悪い模様があった。
キイロ、ミドリ、ヒロシ、モモコに緊張が生じてきた。
虫のバケモノ、ガイチュラ。
ファイタスの話によれば、ガイチュラにはいろいろなタイプがいるという。
既に現れたクワガタ型、カブトムシ型のほか、トンボ型、ムカデ型、そしてカマキリ型……。
今、目の前に居る大きなマダラ模様のカマキリは、もしかしたら――?
「アネキ?」
ミドリがキイロを見た。
「みんな、こっちにおいで。ゆっくり……」
キイロは視線はカマキリに向けたまま、ゆっくりミドリ、ヒロシ、モモコを招き寄せた。
「家の外に出よう。あのでっかいカマキリ、普通の昆虫かもしれないけど、万が一って事もあるから……」
キイロの言葉が終わらない内にカマキリが翔んだ。
バサバサバサッと、羽をはばたかせる、大きな気味の悪い音がした。
体長20cm近くの大きなカマキリではあったが、それにしても大きな羽音であった。




