272.超感覚と超高速4
アカネは口笛を吹くような表情をした。
異世界のアカネは、よくこうやって超音波口笛でガイチュラを“口撃”していたとファイタスから聞いていたから、やってみたのだ。
効果は直ぐに現れた。
アカネの超音波とカブトムシ型巨大ガイチュラの超音波。
その2つの超音波が干渉し合い、打ち消しあってプラスマイナスゼロになったのだ。
いや、それどころかガイチュラの角に亀裂が走り始めた。
アカネの超音波の方が勝っていたのだ。
その隙をファイタスは逃さなかった。
バグストライカーに馬乗りになっているガイチュラの角に、両肩の砲門からビーム攻撃を浴びせたのだ。
亀裂が走ってもろくなっていたカブトムシ型ガイチュラの角は粉々に吹き飛んだ。
怯むガイチュラ。
バグストライカーは下からガイチュラの顔を殴りつけた。
ガイチュラは高校の校庭に横から叩き付けられた。
バグストライカーは立ち上がると、ガイチュラの両足を掴み、一気に上昇した。
そして、上空高く高く舞い上がり、やがてその姿を消した。
見上げるハヤトとアカネ。
「アカ姉?」
「ハヤト。バグストライカーはガイチュラを宇宙空間まで運んでいっている」
次の瞬間、バグストライカーが見えなくなった辺りの空に光が見え、数秒後、遠雷のような音が聞こえてきた。
「アカ姉、これって――?」
「ええ、バグストライカーがガイチュラを宇宙空間で倒したの。ビームで爆破したわ」
「すごいな、そんなとこまで見えるのか?」
ハヤトがアカネを見ると、アカネがふらついて倒れるところだった。
「アカ姉!」
ハヤトが慌てて抱きかかえる。
「慣れてないのにいきなり“力”を使ったせいかもしれない。目まいがしたの」
アカネは貧血を起こしたようだ。
顔色が白かった。
「ハヤトは大丈夫なの?」
「俺はちょっと跳んだり走ったりしただけだから……、なんともないよ」
「そ。良かった……」
アカネはそのまま気を失った。
アカネは高校の保健室に寝かされていた。
ハヤトから連絡を受け、ツヨシとアオイが来ていた。
「そうか、アカネとハヤトにそんな力が……」
「ガイチュラを前にして必死だったから、2人にその力が目覚めたのかもね」
ツヨシとアカネも、次々起こる信じられない事態に強い不安を感じていた。
「俺もアカ姉も、使おうとして使ったわけじゃないんだ。ただ、気付いたら思うより先に体が動いていて“力”を使ってしまっていた。もっともアカ姉は、途中からは意識的に“力”を使っていたからな。それで疲れてしまったんだと思うよ」
ハヤトはベッドの傍らに腰掛けて、眠っているアカネの顔を見つめている。
「にーに、私達にも、アカネやハヤトみたいに力が目覚めるのかな?」
「分からないが……。ファイタスの話の通りなら、俺には頑丈な体と凄い腕力があり、アオイは念動力をもっているということだ。“力”が目覚めれば、取り敢えずガイチュラから身を守ることはできるだろう」