270.超感覚と超高速2
「マズイぜ、俺たちも逃げよう!」
ハヤト(高1)もアカネ(高2)も走り出した。
カブトムシ型ガイチュラは、首を回して一通り辺りを見渡すと、ある方向で視線を固定した。
固定した視線の先には、渡り廊下を走るハヤトとアカネの姿があった。
カブトムシ型ガイチュラは、校舎の渡り廊下に突進した。
その巨大な角で、校舎と校舎を宙でつなぐ渡り廊下を突き破った。
「うわあ!」
角は、先を走っていたハヤトと後を走っていたアカネの間を裂くように突っ込んできた。
渡り廊下は分断され、ハヤトとアカネも向こうとこちら側とに分けられてしまった。
「ハヤト!」
「アカ姉!」
カブトムシ型ガイチュラが角を振り回した。
角はハヤトが居る側の校舎に激突。
校舎が崩れだした。
巨大な瓦礫が1つ、ハヤトの頭上に落下してきた。
「ハヤトォォォォォーーーーーーーーーー!!!」
アカネが叫んだ。
その時、周辺にキーーンという高い音が、いや、それ以上の、人間には聞こえないほど高い周波数の振動が響き渡った。
アカネの叫び声は、高周波、いや、超音波となってハヤトの頭上に落下寸前だった瓦礫に命中し、それを粉々に粉砕した。
カブトムシ型ガイチュラは、今度は反対側の校舎に角を振り回した。
角は渡り廊下と校舎の接合部に激突した。
渡り廊下が校舎から分断された。
「きゃあっ!」
渡り廊下もろともアカネが落下する。
「アカ姉!!」
ハヤトは無意識に跳んでいた。
落下していく渡り廊下よりも高速で降下し、アカネを抱きかかえると、瓦礫を蹴って、今度は校舎屋上に向かって猛スピードで跳躍した。
一瞬にして、アカネをお姫様だっこしているハヤトの姿が校舎屋上にあった。
「ハ……、ハヤト?」
「アカ姉……。ま……、まさか、今のがファイタスの言っていた“力”なのか? 高速で移動する俺と、超感覚器官をもつアカ姉……」
カブトムシ型ガイチュラは、視線を屋上にいるアカネとハヤトに向けた。
「ハヤト! あいつがこっちへ来る」
「まずい、逃げないと」
ハヤトはアカネを抱きかかえたまま走り出した。
「ハヤト、自分で走れるよ!」
「俺が抱っこしてた方が速いだろ!」
屋上の端に来た。
4階建て校舎の屋上からアカネを抱えたまま跳び降りられるだろうか。
さっきのハヤトは、落下する渡り廊下からアカネを救い出し、校舎屋上までジャンプする事ができた。
だが、あの時は無我夢中だった。
考えるより先に体が動いていた。
今のハヤトは、この屋上からどうやって脱出できるか考えてしまっている。
さっきのように、アカネを抱えて超人的な跳躍をする自信が、正直無かった。




