268.バグストライカー7
「ちょっと、ファイタス……先生!」
休み時間。
小学校の廊下でミドリがファイタスを呼び止めた。
「おーや、シブミドリさん、どーしましたーー?」
ファイタスがカタコトの日本語でミドリの呼びかけに応じた。
「どーしましたーー?」
っと、ファイタスの真似をしてから、ミドリは続けた。
「――っじゃないでしょ! なんでウチの学校に先生として潜り込んでいるのよ!」
ファイタスが上体をかがめて、その大きな顔をミドリに近づけてきた。
「しょーがねーだろ。この町のどこかに、恐らくガイチュラどもがやってくる次元の裂け目があるんだ。それを見つけるために、俺はしばらくこの町にとどまらなくちゃならねー」
ファイタスは小声で流暢な日本語に戻っていた。
「だからって、ウチの学校に来ることないでしょ」
「ま、そーいうなよミドリ。オレはオマエのそばにいたいんだよ」
「は?」
「前の世界じゃオマエ、16歳のイイ女だったのになーー。こんなにちっこくなっちまって」
「何言ってんのよ」
「なんなら、オマエが大きくなるまで、オレ、この世界に住み続けようかな」
「もーー、意味分かんない!」
2人の近くをミドリの担任教師が通りかかった。
「おや、志武。もう、ファイタス先生と仲良くなったのかい?」
「あ、いや、えと、その」
「イエーース。シブさん、優しいコです。ワタシ、いろいろシブさんにこのガッコのコト教えてもらってました」
ファイタスは、また怪しい日本語に戻っていた。
「失礼します!!」
ミドリは、足早にその場を離れた。
「あれ、ねえねだ?」
「なんか、ぷりぷりしてる。珍しいね」
離れたところから、モモコとタダシがミドリを見つけた。
いつも穏やかで優しい感じのミドリが気が立っている様子なので、モモコもタダシも意外に感じたのだ。
ファイタスが、アオイとアカネの真似をすると言った言葉の意味。
それは、ファイタスの世界に、かつて12兄弟姉妹たちが居た時、アオイとアカネが教員として学校に潜入し、ガイチュラの捜査をしていた事を指している。
(「妹弟兄姉マイティブラスター『ニ.フォーグナー学園都市編』」参照)
もっとも、その時は、アオイ24歳、アカネ22歳。
教員として潜り込める年齢だったが、現在はアオイ18歳の大学生、アカネに至っては16歳の高校生だ。
夕べファイタスからその話を聞いても、兄弟たちもなかなかピンとこなかったのであった。
ファイタスの居た世界では、ミドリが今のアカネの歳だったわけだ。
なんだか、子ども扱いされたみたいで、ミドリとしては、それも気持ちを波立たせる原因の1つになっていたのであった。




