266.バグストライカー5
男はファイタスと名乗った。
男の話は全く荒唐無稽だった。
昼間の巨大クワガタとロボットの件がなかったら、全く信じられなかっただろう。
だが、昼間の巨大クワガタとロボットの件があった以上、信じないわけにはいかなかった。
ファイタスの話は、おおむね次のような内容だった。
ファイタスは、別の世界の地球から来た事。
その世界は、宇宙害虫ガイチュラに蹂躙され、人類は細々と生きながらえている事。
そんな中、ガイチュラを退治する、退治屋として、超能力をもつ12兄弟姉妹が現れた事。
その12兄弟姉妹達こそ、今、ファイタスの眼前に居る志武12兄弟姉妹達である事。
ドライバウターは、時にはマイティブラスターと名乗る変身ヒーローとしてもガイチュラと戦っていた事。
12兄弟姉妹は、ヒメールランド王国に現れた魔人達との戦いを最後に消息を絶った事。
(以上、「妹弟兄姉マイティブラスター」参照)
ガイチュラは次元を裂いて別の世界の地球侵略を開始しようとしている事。
その、別の世界の地球こそ、この地球であり、ファイタスはそれを阻止するため、スーパーロボット「バグストライカー」を駆り、やって来た事。
クワガタ型ガイチュラを撃破し、たまたま助けた人間が、なんとミドリ達4人だった事。
志武兄弟は、ファイタスが居た時の世界より5~6歳若くなっており、ファイタスも驚いた事。
「……。いやあ……、正直信じられないよ。俺はマンガ家で、マンガを描いているけど、まさに、マンガみたいな話だ……」
ツヨシがつぶやく。
他の兄弟たちも同様だった。
もっとも夜の10時を回り、4歳のチャコと、3歳のダイゴは、それぞれアオイとアカネの膝の上で眠ってしまっていたが。
小1のタダシと小2のモモコも眠そうだった。
「それで、お前達、超能力は無いのか?」
志武家のリビングは、絨毯の上に脚の短い長テーブルを置き、その周りに兄弟達がばらけて座るようになっている。
あぐらをかいて窮屈そうに座っているファイタスが、身を乗り出す。
「そんな事、言われてもねーー」
キイロが言うのも無理は無い。
「大体、そんな超能力あったら、昼間のクワガタに襲われたとき、あなたに助けてもらうまでもなく、ミドリたちがやっつけちゃってたわよ。だって、ミドリは指から光線出すんでしょ? ヒロシは水を操って、モモコは炎を操って、タダシは電撃? もう、恐いモノ無いじゃない」
「いや、他の人間たちが居たからな。能力を隠しているのかと思ったんだよ」
「ない、ない、ない、ない」
兄弟達は一斉に手を振ってファイタスの言葉を否定した。