261.おるすばん3
「俺たちも風呂入ろうぜ」
「あ、でもヒロ兄、まだタダシが宿題済んでないって」
「あと2つなんだろ? じゃあ、待ってるから、タダシ、終わらせてしまえよ」
「うん」
タダシは、食事前にモモコに片付けられた宿題を再びリビングのテーブルに持ってきた。
「タダシの宿題終わるまで、暇だね」
「そうだな」
「ヒロ兄、じゃあさ、かくれんぼしよーよ」
「かくれんぼか……」
志武兄弟の掟、「かくれんぼ」
オニになった者は、たとえ、どこにかくれているか、ありありと判っていたとしても、「どこだ、どこだぁ~~」とさがさなければならないという、志武家、鉄の掟の元に行われるかくれんぼだ。
「オニは?」
「ヒロ兄がやって」
「だよなあ」
ヒロシは、やれやれといった感じでリビングを出た。
「もーーいーーかい」
「まーーだだよーー」
「もーーいーーかい」
「まーーだだよーー」
「もーーいーーかい」
「もーーいーーよーー」
案外早いなと思いながら、ヒロシはリビングに入った。
「どこだ、どこだ~~。――あれ?」
リビングに入ると、モモコばかりかタダシの姿まで消えていたのだ。
モモコに便乗して一緒にかくれたらしい。
宿題はやったのかとヒロシがタダシのノートをチェックすると、どうやら終わった様子であった。
おっと、こうしてはいられない。
早くさがし出さないと、どこかでモモコが拗ねてぷーっとほっぺを丸く膨らませることだろう。
「どこだ、どこだ~~。可愛いモモコとタダシはどこだ~~?」
言いながら、ヒロシはさがした。
トイレには居なかった。
浴室にも居なかった。
まさか、寝室か?
いや、寝室ではミドリが、チャコとダイゴを寝かしつけ中だ。
そこに、どやどや入っていったらミドリの指導があるかもしれない。
ヒロシはそうーーっと寝室の扉を開けた。
なんと。
布団の小山が5つできていた。
その小山が、もぞもぞ動いている。
くすくすくすという笑い声も聞こえてきた。
やはり、モモコとタダシはここにやってきたのだ。
そしてふとんに潜り込んでかくれた。
ついでに、ミドリとチャコとダイゴも一緒に。
ここで、「ねえねまで何やってんだよ」などと言ったりしたら、志武家の掟違反になってしまう。
「どこだ、どこだ~~。可愛い、ダイゴとチャコとタダシとモモコと、ねえねはどこだ~~」
ヒロシは言いながら、わざと見当違いの場所の枕をどけたり、シーツをめくったりした。
「ここかな? ここかな? それとも~~」
2か所わざと間違えてから、当てることになっているのである。
「ここかな!?」
ヒロシはいちばん大きな小山をめくった。
案の定、くすくす笑いながらミドリがかくれていた。
「ここかな、ここかな、ここかな、ここかなーー」
次々と小山を4つめくる。
弟妹4人が現れた。
「あーー、見つかったーー」
「見つかっちゃったーー」
モモコ、タダシ、チャコ、ダイゴが、嬉しそうにヒロシに抱き付いてきた。
「うわああ、まいった。重い、重い。ヘルプ、ヘルプ!」
弟妹4人に埋もれるヒロシ。
「よーーし、ヒロ兄をかくすぞ」
「かくすぞ、かくすぞ」
布団と自分たちの体とを使って、モモコ、タダシ、チャコ、ダイゴたちはヒロシをかくした。
「ねえね、ヒロ兄さがして」
「さがして、さがして」
自分たちでかくしておいて「さがして」もないもんだが、そこは志武兄弟の掟である。
ミドリもちゃんとさがし始めた。
「どこだ、どこだ~~? 可愛いヒロシはどこだ~~?」
ミドリは「ここかな?」と言いながら、両手でチャコとダイゴの足の裏をこちょこちょした。
「「きゃははははっ」
笑い転げるチャコとダイゴ。
「ここかな?」
ミドリは今度は、モモコとタダシの足の裏をこちょこちょした。
「「きゃははははっ」」
今度はモモコとタダシが笑い転げる。
ヒロシの姿がほぼむき出しになった。
ヒロシは一応顔をうつ伏せにしてかくれているポーズをとっていた。
「それとも……」
ミドリは、モモコ、タダシ、チャコ、ダイゴの4人に目で合図をすると、両手をくすぐりの形に動かした。
「ここかな!」
ミドリの声で、ミドリ、モモコ、タダシ、チャコ、ダイゴの5人が、一斉にヒロシの全身をくすぐり始めた。
「どわああああっ、は、は、は、は……、や、やめてくれーーーー!!」
ヒロシは特にくすぐられるのに弱い。
かといって、逃れるために強引に手足を振り回したりしたら、弟妹達にぶつかってしまう。
「ひいいいーーーーー、ひ、ひ、ひ、ひ……」
ヒロシは必死に耐えた。
「ストーーップ! このくらいにしとこ」
ミドリの合図で、5人はヒロシをくすぐるのをやめた。
「はーー、はーー、もーー、カンベンしてくれよ……。汗びっしょりかいちゃったぜ」
ヒロシが息を切らしていた。
「僕も汗かいたーー」
「あたしもーー」
ダイゴもチャコも全身に汗をかいていた。
風呂上がりなのに、布団の中に潜り込んだり、じゃれ合ったりして、毛穴が開いてしまったのだ。
ミドリまで「私も汗かいちゃった」と、パジャマの胸元をぱたぱたやっていた。
「もう1回、みんなでお風呂入っちゃおうか?」
「さんせーー、さんせーー」
ミドリの提案で、今度は6人一緒に入浴する事になった。
小学生や幼児とはいえ、6人だと風呂場もぎゅうぎゅうだ。
それでも無理してお湯に浸かったら、6人が出た後のバスタブのお湯はほとんど無くなってしまった。
でも、この日は、もうこの後お風呂に入る兄姉たちは居ないので、ミドリ、ヒロシ、モモコ、タダシ、チャコ、ダイゴは、気兼ねなくバスタブのお湯をあふれさせて、6人での入浴を楽しんだのであった。




