259.おるすばん1
今日は志武兄弟の半分が留守であった。
ツヨシ(大2)とアオイ(大1)は、大学のゼミで泊まり。
アカネ(高2)とハヤト(高1)は、高校の生徒会関係の仕事で泊まり。
キイロ(中2)とコウジ(中1)は部活の合宿で泊まり。
今宵、家に居るのは小5のミドリ、小4のヒロシ、小2のモモコ、小1のタダシ、年中のチャコ、年少のダイゴの、年下6人組なのである。
「ほーーら、ご飯よーー! テーブルの上、片付けてーー」
ミドリがキッチンから大声を上げた。
ダイゴとチャコはテーブルの上でぬり絵をやっているし、タダシは宿題をやっている。
ミドリとヒロシがメイン、モモコがちょっとお手伝いといった感じで、その日の夕食は作られていた。
「ほーら、早く片付けなさい。食器が並べられないでしょ」
モモコが言いながら、途中の宿題やら塗り絵やらを強制的に取り上げていく。
「あ、モモちゃん、あと2問だったんだけど……」
「あたしも、あと、靴だけ塗ればよかったんだけど……」
「僕も、あと、毛虫だけ塗ればよかったんだけど……」
タダシ、チャコ、ダイゴら3人の抵抗もモモコには通じない。
「はいはい。じゃあ、それは食べてからにしなさいねーー。さあ、ご飯ご飯」
なんだか、いつもアオイやアカネが言っているのと同じことをモモコが言っている。
普段だったら、モモコだって言う側ではなく言われる側なのだ。
だが、現状の6人兄弟の中では、ミドリ、ヒロシ、モモコが上の3人、タダシ、チャコ、ダイゴが下の3人だ。
「上の側に居る」という自覚が、モモコをそのように振舞わせているのだろう。
それを見て、なんだかミドリとヒロシはおかしくなった。
「じゃあ、お皿やスプーンを並べてねーー」
「はあーーい」
タダシ、チャコ、ダイゴは、ミドリの言葉に素直に従い、食器を並べ始めた。
「ねえね、今日のごはんはなあに?」
「あら、匂いで判るでしょ?」
「判った、カレーだ」
ミドリの言葉に、ダイゴは顔を輝かせた。
「ヒロシ、サラダ6つに取り分けてくれる?」
「おう、やってるぜ。モモコ、皿をくれ」
「はい」
兄弟たちは手際よく食事の盛り付けをしていった。
「モモコ、お皿にごはんよそってこっちに頂戴」
「はい」
兄姉の指示に、モモコがこまめによく動く。
「いいにおーーい」
「おいしそう」
タダシもチャコも嬉しそうだ。
ほとんどの子どもがそうであるように、志武兄弟たちもカレーが大好きだ。
「みんな、行き渡ったわねーー? じゃあ、声を揃えて――」
「いっただっきまーーす」
ミドリの合図で6人は一斉に挨拶をすると、食事を始めた。
とはいうものの、幼稚園児のチャコやダイゴはこぼすので、ミドリとヒロシがそばについて口の周りやらテーブルやらを拭いてやりながら食べるのである。
ミドリやヒロシも、かつては上の兄姉たちにやってもらっていたことだ。
「なーーんか、6人だとさ、ちょっと寂しい感じだね」
ヒロシが言った。
「6人家族ってのは、人数多い方だと思うけどね。でも、うちの場合、もともと12人だから、半分になっちゃってるわけだもんね」
ダイゴの口の周りを拭いてやりながらミドリが応じる。
「今日はさーー、ねえねが、アオ姉やアカ姉の代わりだね。じゃあさ、『ミド姉』かな。そんでもって、ヒロ兄は、にーにの変わりだから、『ヒロにーに』」
「『ミド姉』ねえ……、やっぱり、『ねえね』の方がいいかな」
「俺も、『ヒロにーに』じゃなくて、今まで通り『ヒロ兄』にしてくれ」
タダシの言葉にミドリとヒロシは苦笑した。