257.異次ナビ15
「パンだわ」
「「ぱん?」」
チャコ(年中)とダイゴ(年少)がアオイ(大1)に声を揃えて聞き返す?
「食べ物じゃないわよ。『パン』というのはあの怪物の子の名前。上が人間、下が山羊の姿のモンスターをそう呼ぶの」
「みんな、見ろよ、あのパンの手足」
ハヤト(高1)に促され、一同はパンの手足に目を向けた。
「あ……」
一同は小さな声を上げた。
パンの片腕と片足は機械でできていたのだ。
「メローナ、もしやあれは?」
ようやく普通に喋れるようになったツヨシ(大2)の問いにメローナが答える。
「はい……、あれは私の腕とナプルの足です」
パンの少年の年恰好はナプルと同じくらいだった。
だから、メローナの左腕のサイズが体に合っていない。
右腕より長いのだ。
また、右足は人間の――正確にはアンドロイド(人間型ロボット)の――それだった。
山羊の左足と人間の右足とで、こちらもアンバランスだ。
「やめて! 父さんを射たないで」
大の字の姿で父親の怪物を守ろうとするパンの少年。
ツヨシが応じた。
「こちらも無駄な戦いをするつもりはない。ナプルを……、そこに吊り下げられているアンドロイドの少年を自由にするんだ。そうすればこれ以上の攻撃はしない」
事情は次の通りだった。
モンスターワールドでは戦いが絶えない。
この怪物の親子――(父親の名はバラッド、息子の名はブレッドといった)――は静かに暮らしていたのだが、戦いに巻き込まれブレッドは左手と右足を失ってしまった。
そんな時、ロボットワールドからナプルがモンスターワールドに迷い込んできた。
バラッドはナプルを襲って右足を奪い、試しに魔力でブレッドに付けてみた。
機械の、それも人間型の足ではあったが、なんとかブレッドは歩けるようになった。
次はナプルの左腕を奪おうとしたバラッドだったが、自分の息子と同じくらいの年恰好のナプルに息子と同じ苦しみ悲しみを味わわせるのに忍びなく、果たせないでいた。
そこへ今度はナプルの姉、メローナがモンスターワールドにやってきたので、今度はメローナを襲い、その左腕を奪った。
これでやめておけばよかったのだろうが、戦いの激しいモンスターワールドでは、いつまたブレッドが手足を失うような事になるか分からない。
そのための備えとして、可哀想だがナプルは手元に捕えておく事にしたバラッドだった。
そこへ、メローナが志武兄弟と共にナプルの奪還に現れ、今回の戦いに至ったというわけだったのである。




