249.異次ナビ7
確かに、いつの間に現れたのか、天井に「ドリル」と書かれたボタンがあった。
「押せ、押せーー!!」
ハンドルをせわしく右に左に切りながらツヨシ(大2)が叫ぶ。
ミドリ(小5)に抱かれているダイゴ(年少)が手を伸ばしてボタンを押した。
ぎゅるるるるるっと音を立てて車の正面に高速回転のドリルが出現した。
「なんか、もう何でもありね」
「もう何が起きても驚かないぞ」
アカネ(高2)とハヤト(高1)の高校生コンビが悟ったように言う。
車は地中に潜り始めた。
巨大花も、土の中までは追ってこられないようだった。
「にーに、どこに向かってるの?」
「テキトーだ」
「このまま進んだら地球の中心に飛び込んじゃったりして?」
「それはまずいな」
アオイ(大1)の言葉に、ツヨシはハンドルを引いた。
先ほど空を飛んだ時だが、進行方向を上に向ける時はハンドルを引き、下に向ける時はハンドルを押せばいいように車も変化していたのである。
「これで地上に向かっているはずだぞ」
とはいっても、車の周りは全て土なので真っ暗だ。
視界が急に開けた。
車が地上に出たのである。
ウォッシャーとワイパーを操作し、フロントガラスに残っている土を洗い流すツヨシ。
先ほどいた場所に比べると、密林というよりは木のまばらな林という感じであった。
ここには大口巨大花は居なかった。
「降りてみるか」
車から出る十二人。
草花の香りがする。
「大自然の中って感じだね」
キイロ(中2)が伸びをした。
ずっと車の中に十二人がぎゅうぎゅう詰めで、ロボットや巨大花に襲われ必死に逃げてきたのだ。
みんな体が緊張で強張っていた。
思い思いに伸びをしたり、足の屈伸をしたり、上体を回したりする兄弟達。
「ねー、まだ帰れないの?」
ダイゴが不安そうに兄姉達に尋ねる。
「そうだな……」
コウジ(中1)が運転席横に取り付けられている「異次ナビ」を覗き込む。
『異次ナビ』を稼働させてから、それまで無かったボタンやら機能やらが志武家の車に出現した。
今度は「自宅へ帰る」という選択肢が「異次ナビ」の画面に出ていやしないかとコウジは思ったのだが、残念ながら表示されていなかった。
「やっぱり家にはまだ帰れないみたいね……」
コウジの直ぐ横にミドリが顔を寄せて異次ナビを覗き込む。
「じゃあ、また別の世界に行ってみなければならないのかな……」
コウジの反対隣にキイロが顔を寄せて異次ナビを覗き込む。
その時、「キャアアアアーーーーッ!!」という悲鳴が響いた。




