243.異次ナビ1
「いじなび?」
十一人の弟妹たちが口を揃えて問い返した。
ツヨシ(大2)が、小さな箱を示しながら説明を始める。
「異次元ナビゲーションシステム。略して『異次ナビ』だそうだ」
「異次元って……、まさか本当に別の世界に行けるの?」
「まさかね。SFじゃあるまいし」
ハヤト(高1)とコウジ(中1)がツヨシに突っ込んだ。
「まあ、俺もそうだとは思うんだが……、編集部からこれのレポート漫画を頼まれてな。使ってみてどうだったか描かなければならないんだ」
「ふーん」
アオイ(大1)、アカネ(高2)、キイロ(中2)……と、その小さな箱は順々に弟妹たちの手に渡った。
「この箱……、イジナビだっけ? どうやって使うの?」
ミドリ(小5)が上や下からイジナビを覗き込む。
「車のカーナビに接続すればオッケーらしい。簡単だ」
「つなぐと何が起きるのかな?」
ミドリから箱を受け取り、ヒロシ(小4)が指先でコンコンとたたいてみる。
「まあ……、なんかSFっぽい音楽が流れるとか……、カーナビの画面に何か映るとか……、そんなとこじゃないか」
ツヨシも使ってみたわけではないので詳細は分からない。
「なんか、面白そうじゃない。早速使ってみようよ」
「うん、見たい、見たいーー」
モモコ(小2)とチャコ(年中)は大乗り気だ。
「なんか、悪い奴と戦うビデオとか映るかな?」
特撮ヒーロー大好きのタダシ(小1)も鼻息が荒い。
「大丈夫? こわいこと起きない……」
末っ子のダイゴ(年少)はちょっと心配そうだった。
「まあ、とにかくちょっと使ってみようと思うんだ。じゃ、みんな車へ」
ツヨシの言葉で兄弟姉妹は全員、車に移動した。
志武家の車は大きな十人乗りだ。
定員は十人だが、子ども三人は大人二人分に換算されるので、兄弟姉妹十二人全員が乗れるのである。
運転席のツヨシが、イジナビをケーブルでカーナビに接続した。
「エンジンかけなきゃ動かないわよね」
「そうだな、じゃ、エンジンかけて、ちょっとそのへん走ってみよう」
隣の席のアオイの言うように、ツヨシはキーをひねってエンジンを始動させた。
ポーンと音がして、イジナビから声がした。
「異次元ナビゲーションシステムを起動しました」
「あ、しゃべった。ほんとに『異次元ナビゲーションシステム』っていうんだね」
後ろの座席から首を伸ばしてイジナビを覗き込むキイロ。
「じゃ、みんな、出発するぞーー」
ツヨシは車を走らせ始めた。
――と!
突然、窓の外の風景が一変した。
電柱が、塀が、家が、道路がぐにゃりと曲がり、水にいろいろな絵の具を溶かしてかき混ぜたみたいになってしまったのだ。