230.志武家の一大事5
朝。
テーブルに突っ伏していたアオイは「はっ」と目を覚ました。
「いけない! 朝ごはんの支度しなきゃ!」
アオイは兄弟たちの母親代わり。
朝食を作って食べさせなければならない。
しかし夕べは遅くまでマンガ原稿を仕上げ、その後は大学のレポート書き。
そのまま机で寝てしまい、いつもより遅い時間に目を覚ましたのだ。
目の前には、今までのアオイと同じように机に突っ伏して寝ているアカネとハヤトの頭があった。
トントントントン……。
アオイの耳に聞こえてくるリズミカルな音。
なにやら温かな香ばしい匂いもしてくる。
アオイはキッチンに向かった。
エプロンをした大きな背中が台所に立っていた。
「にーに……、治ったの?」
「おはよう、アオイ」
振り向いたツヨシの表情が、もうすっかり体調が戻っている事をアオイに伝えていた。
「夕べはありがとう。みんなで原稿を仕上げてくれたんだな」
「そんな……、当たり前だよ。あ、にーに、私やるから――」
「もう出来上がるから大丈夫だ。それより、みんなを起こしてやってくれ」
ツヨシがアオイの頭にぽんっと手を置いた。
アオイは幼い頃から兄の手で頭をなでてもらうのが好きだった。
「良かった、治って……、心配したよ」
「心配かけたな、もう大丈夫だ」
ツヨシはアオイをぎゅっとハグした。
「あー!、にーに、治ったのーー?」
いつの間にかキッチンにアカネが来ていた。
「にーに、私もちゃんと原稿お手伝いしたのよ」
アカネがツヨシのそばに来る。
「分かってる。ありがとう」
ツヨシは同じようにアカネもぎゅっとハグした。
「にーに、治ったのか。俺も手伝ったんだぜ」
「おう、ハヤト。ありがとな」
ツヨシは同じようにハヤトもハグした。
「あ、にーに、復活してるーー」
「良かった、元気になったんだね」
続いてキイロにコウジに……、弟妹達全員がキッチンにやってきていた。
そして一列になってツヨシにハグしてもらうのを待っているではないか。
「サンキュー」
「よくやってくれた」
もちろん、キイロからダイゴまで残り全員の弟妹達をツヨシがしっかりハグし終えてから、その日の志武家の朝食は始まったのであった。