227.志武家の一大事2
アオイ、ヒロシ、モモコ、タダシは、仕事場にしている和室に入った。
ここは中央に大き目の長テーブルが置いてあり、周りに兄弟たちが座ってマンガ原稿を描けるようになっているのだ。
アオイはペンを握ると、ツヨシの下書きの上から猛スピードでペン入れを始めた。
といっても、入れるのは顔だけ。
顔を入れたら、ヒロシに渡す。
ヒロシは体の線を入れていく。
兄弟達、皆同じような絵が描けるとはいえ、やはり年齢による経験値の差がある。
アオイとヒロシで同じレベルの絵は描けない。
肝心なキャラクターの顔はアオイが描き、体はヒロシが描くのだ。
ヒロシもペン入れが速い。
彼ら兄弟にとっては、マンガ原稿描きが生活の一部になっているのだ。
キャラクターの全身にペンが入ったところで、モモコとタダシが消しゴムをかけ、着ている服の必要な箇所にスクリーントーンを貼っていく。
これでキャラクターは何とかでき上った!
しかしまだ背景が入っていない。
背景にはツヨシも「窓」とか「車内」とか「ビル」とか「駅」とか文字でしか指定していないので、一から描いていかなければならない。
さすがに、背景を一からヒロシやモモコ、タダシが描くのは無理だ。
アオイが資料用の写真を参考に、一から鉛筆で必死に描き起こしていく――が、これでは間に合わない!
そこへ――
「ただいまーー」
待望のアカネ、ハヤト、キイロ、コウジが帰ってきた。
「腹減ったーー」
「今日の夕飯何かな?」
ハヤトとコウジがダイニングにやって来る。
「あ、アニキ、コウちゃん」
「お帰りーー」
食事中のチャコとダイゴが兄二人を迎えた。
「あれ、ミドリとチャコとダイゴだけ?」
「他のみんなは?」
「アニキもコウちゃんも、それどこじゃないの! にーにが風邪で寝込んじゃって……。今、アオ姉たちが必死に原稿してる!」
ミドリがチャコとダイゴの食事の面倒を見ながら兄二人に言った。
「え、ホントか?」
「――って事は、みんな仕事部屋?」
ハヤトとコウジは、ドスンと部活の道具が詰め込まれている思い鞄を床に置くと、仕事部屋の和室に向かった。
既に、アカネとキイロが制服のまま座り、作業に入らんとしていた。
「うわ、アカ姉もキイロも早いな!」
ハヤトが感嘆して座ろうとする。
それをアカネが制した。
「ほらハヤトもコウジも手うがいしてから! 外から帰ってきたんだし、手が汚れていたら原稿だって汚しちゃうでしょ」
「そうか、そうか」
素直に姉の言葉に従い、洗面所に向かうハヤトとコウジ。