226.志武家の一大事1
ツヨシ(大2)が風邪で寝込んだ。
志武家、一大事!
というのは、マンガ原稿の締め切りが迫っているからだ。
明日の朝一で渡さなければならない。
つまり今夜中に仕上げなければならないのだ。
今回は大学の講義やらレポートやらでツヨシもアオイ(大1)もスケジュールがつまっており、なかなか予定通りに原稿を進めることができなかった。
弟妹たちの授業参観やら保育参観やら懇談会やらもあった。
ただでさえ原稿の進行が遅れていたのに、ここにきてツヨシがダウンしてしまったのだ。
後は、弟妹たちで仕上げなければならない。
幸い、鉛筆下書きまでは原稿は終わっていた。
後はペンを入れ、消しゴムをかけ、スクリーントーンを貼り、ベタを塗り、ホワイトで修正すれば完成である。
志武兄弟たちは皆同じような絵を描ける。
ツヨシの下書きはラフだが、そこは弟妹たちがペン描きで仕上げればすれば済む――はずなのだが……。
人がいない!
今、夕方の6時半。
次女のアカネ(高2)は生徒会の仕事でまだ帰ってきていない。
次男のハヤト(高1)も今日はハンドボール部の試合の助っ人でまだ帰ってきていない。
三女のキイロ(中2)はテニス部、三男のコウジ(中1)は野球部の部活で、まだ中学から帰っていない。
いるのは、小学生のミドリ(小5)、ヒロシ(小4)、モモコ(小2)、タダシ(小1)に、幼稚園児のチャコ(年中)、ダイゴ(年少)の6人だ。
ここでまずアオイがしなければならない事は……。
みんなに夕飯を食べさせる事!
しかし、夕飯を作る時間も惜しい!
「アオ姉、ご飯の支度なら私がするからアオ姉は原稿描いてよ」
空気を読んでミドリが申し出てくれた。
アオイには妹の顔が天使に見えた。
「ありがとうミドリ。助かる!」
「私ご飯の支度してるから、ヒロシとモモコとタダシはアオ姉のお手伝いして!」
「りょーかい」
「任して!」
「オッケー」
ミドリに指示され、弟妹達が応じた。
「あたしもアオ姉のお手伝いするーー!」
「僕もー」
二人の幼稚園児も名乗りを上げた。
気持ちはありがたいが、チャコとダイゴに任せられるのは、ぎりぎり消しゴムかけだ。
「チャコとダイゴは、私とご飯の支度しよーね。夕飯、何にしよーか」
ミドリはしゃがんで目線をチャコとダイゴの高さに合わせ、二人の頭を撫でた。
「いーよ。じゃ、あたし、ねえねのお手伝いするー」
「僕もー」
どうもダイゴはチャコに追随しているだけのようでもあるが、まあ、そこは三歳児なので。