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222.ナンパ対策

 夏休みのある日、志武十二兄弟姉妹たちは全員で海水浴にやってきた。

 パラソルにレジャーシートに飲み物にお弁当……。

 更にそれらに加えての、必需品があった。

「あ、にーにたち、またそれ使うのーー?」

 モモコ(小2)が言った「それ」とは……。

 ツヨシ(大2)とハヤト(高1)が手にしているサングラス。

 だが、端がやたら尖っていて、細身の、ちょっとガラの悪い感じのものだった。


 午前中泳ぎ、昼食となった。

 飲み物が足りなくなり、アオイ(大1)とアカネ(高2)が買いに出たのだが、帰りが遅い。

「アカ姉、アオ姉、遅いねーー」

「もしかして?」

 キイロ(中2)とコウジ(中1)の言葉に、「ちょっと様子を見に行くか」と、ツヨシとハヤトが立ちあがった。


 ツヨシとハヤトがしばらく行くと、金髪で日焼けした若い男が二人がナンパしている場面に出くわした。

 彼らがナンパしようとしていたのは、アオイとアカネであった。

「ねーねー、君たち可愛いーねー。どこから来たのーー?」

「いくつーー? 俺たちと一緒に泳ごうよーー」

 それぞれ両手に買った飲み物を持ち、アオイとアカネは苦笑しながらかわしているのだが、男たちはなかなか引きさがらない。

「にーに、俺たちの出番のようだぜ」

「だな」

 ハヤトとツヨシは、持っていたサングラシをかけた。


「ねーねーねーねー」

 アオイ、アカネに食い下がる二人のナンパ男。

「よーー、おい!」

 その背後からツヨシとハヤトは低音ボイスで声をかけた。

「あん? なんだあ」

 声にナンパ男たちが振り返る。

「う……」

 ナンパ男たちは息をのんだ。

 いかにもガラの悪そうなオーラを放ちながら二人のサングラス男が立っていたからだ。

 ハヤトとコウジ。

 高一のハヤトは身長百七十五センチ、やや痩せ型の体型だが、ツヨシは百八十五センチの長身に筋肉質のがっしりとした体つきでまるで格闘家のよう。

 ナンパ男は二人とも百七十センチちょっとくらいの身長なので、ツヨシとハヤトから見下ろされることになった。

「俺たちの連れに……、何か用?」

 凄みを利かせててツヨシが言った。

「い、いや……、その……」

「な、なんでもないっス。しつれーしやしたーー」

 ナンパ男たちは、ぴゅーっと音が聞こえそうな勢いで足早に去っていった。

「二人ともありがとう」

「助かったわ」

 ほっとした様子で、アオイとアカネ。

「毎回のことだからなーー」

「飲み物持つよ」

 アオイとアカネが持っていた飲み物のいくつかを、ツヨシとハヤトが受け取った。

「それにしても……」

「にーにもハヤトも、ガラの悪い役ぴったりねーー」

 アオイとアカネに言われ、ツヨシとハヤトは口をそろえた。

「うれしくないぞ」


 戻ってきたツヨシ、アオイ、アカネ、ハヤトから話を聞かせられた弟妹たち。

「よーし、じゃあオレたちも、姉ちゃんたちをナンパから守るぞーー」

 タダシ(小1)が言えば、

「おーー」

とダイゴ(年少)も同調した。

 さっそく、ツヨシとハヤトのサングラスをかけてみる。

「形から入るタイプね」

 キイロが言えば、

「でも、サングラスぶっかぶかだねーー」

とモモコも指摘。

「せっかく、私たちのこと守ろうとしてくれてるんだから、そんなに言っちゃ悪いよ」

「「あ、そうでした」」

 ミドリ(小5)に言われ、キイロとモモコは揃ってぺろっと舌を出した。


 モモコとチャコ(年中)が波打ち際で遊んでいると、ときどきよその若いお母さんやお年寄りなどが声をかけてきた。

「あら、かわいーわねーー」

「どこから来たのかな?」

 モモコとチャコも愛想よく応じている。

 それに遠くからタダシが気付いた。

「あ、ダイゴ! モモちゃんとチャコが声をかけられているぞ」

「あんちゃん、分かった!」

 二人はサングラスをかけた。

 そのまま、波打ち際をぱちゃぱちゃと走る。

 こて。

 ダイゴが転んだ。

 その拍子にサングラスも外れてしまった。

「あんちゃ~~ん」

「しょうがないな」

 ダイゴのサングラスを拾ってやろうと、戻るタダシ。

 タダシより先に、細くて白い指がサングラスを拾い上げた。

 タダシが見上げると、水着姿の若い女性が二人立っていた。

「はい、ぼく、落とし物」

「あ、ありがとう」

 受け取るタダシ。

「ぼくたち、サングラスなんかして、可愛いわね」

「どこから来たのーー?」

 女性二人はしゃがみこみ、目の高さをタダシとダイゴに合わせた。


「にーに、見ろよ。タダシとダイゴが若い女性に声かけられているぞ」

「ったく……。自分たちがナンパされてどうする」

 ハヤトとツヨシが言えば、

「アネキ、助けに行こう」

「よーし、タダシ、ダイゴ、今行くわよーー」

 ミドリとキイロが飛び出した。

「これじゃボディガードの立場が逆ね」

「ほんと」

 二人の背中を見送りながら、アオイとアカネ。

「けっこう嬉しそうだし、ほっとけば?」

 なるほど、ヒロシ(小4)の言う通り、頬を赤らめ、ちょっと照れくさそうではあるが、タダシとダイゴ、よその水着のお姉さんに声をかけられて、ちょっとご機嫌な様子であった。

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