212.空だった箱
「夢……じゃないよな、今の?」
空を見上げながらハヤト(高1)が言った。
「夢……じゃないよ。だって全員いっしょに見たんだもん」
「朝っぱらから不思議なことがあったな」
キイロ(中2)とコウジ(中1)が言った。
「ともかく、うちの中に入りましょう」
ミドリ(小5)の言葉で、兄弟たちはリビングに戻った。
テーブルの上には、リスリーナが残していったキラキラの箱が置かれている。
その弁当箱大の物を見てヒロシ(小4)が言った。
「スクワレルボックスが残っている。やっぱり夢じゃなかったんだ」
「何が入っているのかな?」
モモコ(小2)がスクワレルボックスのふたを開けた。
「あ!」
一同は、オドロキの声を上げた。
スクワレルボックスの中は――、空っぽだったからである。
「なーんだ、リスリーナったら、困った時にこれを使えとか言って、中身を入れるの忘れちゃったんじゃないの」
タダシ(小1)が箱をひっくり返し、底をぺんぺん叩いた。
特に二重底になっているわけでもなさそうだ。
「この箱、きれいだから、何か小物入れに使ってもいい?」
チャコ(年中)が兄弟たちにたずねた。
「そうだな……。誰か、ほかにこの箱の希望者居るか?」
ツヨシ(大2)が弟妹たちに確認したが、他に申し出る者は居なかった。
「いいみたいだぞ、チャコ」
「ありがとう、にーに」
「良かったね、チャコちゃん」
ダイゴ(年少)もチャコと一緒に喜んだ。