211.救われる箱
「ところでリスリーナ、あなたはどうしてこの地球に?」
『はい、ミドリさん。実は、地球の近くを通りかかった際、宇宙船の調子が突然悪くなりまして……、ここに――、皆さんのお宅のお庭に不時着してしまったのです』
「え、じゃあ、君の宇宙船はどこに?」
『ああ、ヒロシさん、それは、ほら、あれです』
リスリーナはテーブルの上に置かれているカゴを指差した。
「あれは、タダシがあなたと一緒に拾ってきたカゴだけど?」
『モモコさん、あなた方の言うそのカゴが、私の宇宙船なのです』
「宇宙船、壊れてないの? 宇宙へ帰れるの?」
『調べてみますね。タダシさん、済みませんが、ちょっと宇宙船をこちらに持ってきていただけませんか』
言われてタダシ(小1)は、カゴ――リスリーナ言うところの宇宙船――を持ってきた。
宇宙船は、地球でリスを飼育するための全く普通のカゴに見えた。
中には、エサ入れや、水飲み器、滑車など(に見えるだけで、実際は宇宙船の備品なのだろう)が備え付けてある。
誰がこれを宇宙船だと思うだろうか。
リスリーナは、カゴの中に入ると、水飲み器や滑車などせかせかと点検し始めた。
知らない人が見たら、普通のリスが、カゴの中をせわしく動き回っているだけだと思うだろう。
「どう? リスリーナ」
滑車を回しているリスリーナにチャコ(年中)が聞いた。
『大丈夫です、チャコさん。太陽の影響で一時的にシステムの調子が悪くなっただけで、どこも故障していません』
「そうなんだ! 良かったね」
我が事のように喜ぶダイゴ(年少)。
『ダイゴさん、ありがとう――。そうだ、皆さんに』
リスリーナはカゴ(宇宙船)から出ると、己の二股のシッポを一振りした。
するとどこからともなく、弁当箱くらいのサイズの小箱が出現した。
キラキラと輝いている。
『これは、スクワレルボックス。助けてくださった皆さんへ、私からのお礼です。困った時に、この箱を開けてみてください。その時、中から出てきた物が、皆さんのお役に立つかもしれません』
「救われるボックス? リスリーナ、そんな気を遣ってくれなくていいんだぞ」
『いいえ、ツヨシさん。もし不時着したまま放っておかれたら、私は猫やカラスに襲われていたかもしれません。タダシさんが見つけて保護してくださったおかげで、私はこうして無事でいられるのです。皆さんは、私の命の恩人なのです』
「いつ宇宙へ帰るの?」
『アオイさん、私は大事な用で移動の途中だったのです。今直ぐ宇宙へ飛び立たなければなりません』
「残念ね。せっかく友達になれたのに……」
「私も残念です、アカネさん。でも、またいつか地球に立ち寄らせてください。そうしたら、今度は、ゆっくり皆さんとお話したいです」
リスリーナは、カゴ(宇宙船)の中に入ると、滑車を回し始めた。
滑車を回すスピードは、どんどん、どんどん速くなった。
滑車が、続いて、カゴ全体が光り輝き始めた。
やがて、リスリーナも、滑車も、カゴも、光の中に消え、輝く光の塊が、ゆっくりとテーブルの上に浮き上がった。
その大きさは、果物のメロンぐらいだろうか。
そのメロン大の光球から、リスリーナの声がした。
『皆さん、お別れです。助けてくれてありがとう。どうか、また会う日までお元気で……』
光球はゆっくり窓の方へ移動すると、窓ガラスを突き抜けた。
「!」
驚く兄弟たち。
『さ・よ・う・な・ら……』
窓ガラス越しに、光球が空高く上昇していくのが見えた。
兄弟たちは、リビングのガラス窓を開け、庭に出た。
兄弟たちが見上げる空の彼方に、光球となったリスリーナの乗る宇宙船は消えていった。




