206.シュートイン!
6年生男子 対 4,5年生女子の、バスケットボールシュート対決。
あちらは、ガンタ、ギンゾウ、ゴンスケの6年生男子3人。
こちらは、メグ、ヨーコの4年生女子2人と、ミドリ(小5)の計3人だ。
シュートは1回交替で行う。
4,5年生側のトップはメグ。
まずは1投目。
見事に決まった。
「やったメグ!」
「いいぞ」
「すごいじゃない」
ヨーコ、ヒロシ(小4)、ミドリが歓声を上げる。
「へん、見てろ」
6年生側のトップはゴンスケ。
シュートは――、外れた。
しらーっとなる6年生3人。
メグの2投目は……、残念ながら外れた。
逆にゴンスケは決めた。
これで1対1。
メグの3投目が再び決まった。
ゴンスケは外れ。
1人目は、2対1で、4,5年生側のリードだ。
続く2人目は、ヨーコとギンゾウ。
こちらは、ヨーコが1本、ギンゾウが2本決め、トータルスコアは3対3の同点となった。
3人目は、ミドリとガンタ。
ボールを何回か弾ませ、顔の前で構えると、ミドリはボールを放った。
「つ……っ!」
その時、ミドリの手首に痛みが走った。
ボールはボードにすら当たらず、大きく反れた。
手首を押さえるミドリ。
「ねえね、大丈夫か?」
ヒロシがミドリに駆け寄る。
「なんだ、なんだ、大外れだな。5年のくせに、4年より下手なんじゃねーの」
ガンタがまたも憎まれ口をたたく。
ただ、ガンタは口だけではなかった。
きっちりシュートも決めたのだ。
これで3対4で、6年生側のリードとなった。
ミドリ、2投目の番だ。
「ねえね、投げられる?」
「うーん……。ごめん、無理かも」
ヒロシの気遣いに、ミドリは正直に答えた。
ここで強がっても仕方が無い。
「あれあれ、棄権ですかあ? んじゃあ、ここは俺たちの勝ちってことで……」
「待ってくれよ」
ガンタをヒロシが制した。
「先輩たち、俺が姉ちゃんの代わりをやってもいいか?」
それまでシュート対決の傍観者だったヒロシが、転んで手首を痛めたミドリの代わりを申し出た。
ガンタは、ギンゾウ、ゴンスケらと顔を見合わせた後、答えた。
「別にかまわねえぜ。ただ、オマエ、バスケは素人だろ? シュートできんのかよ」
「確かに俺はバスケは素人だ。だから……」
「だから?」
「足でやらせてほしい」
「足でだと?」
ガンタ、ギンゾウ、ゴンスケは笑い出した。
「手が使えないから、足でシュートするぅ?」
「オマエ、バカじゃねーの。足で入れるほうが数倍むずかしいだろ!」
「まあ別にこっちは、足使おうが尻使おうが構わねーけどよ」
ヒロシは、バスケットボールを膝や爪先でリフティングし始めた。
「じゃあ、オッケーって事だな?」
「別に構わねーぜ」
ガンタは腕を組んでニヤニヤしていた。
「じゃ……、いくぜ!」
ヒロシは、ボールを、右足の内側でポーンと高く蹴り上げた。
ボールはゆるやかな放物線を描き……。
スポッ、と、見事にバスケットボールのカゴの中におさまった。
「入った!」
「志武君、すごい!!」
メグとヨーコが目を丸くする。
合計数が4対4となり、再び同点となった。
「く……」
足で入れることをバカにしていたのに、見事ゴールを決められた悔しさにガンタの顔が歪んだ。
「けっ、見てろ!」
2、3回、ボールを弾ませた後、ガンタはシュートを放った。
しかし、ボールはリングに当たり、外れてしまった。
「しまった……」
スコアは4対4のままである。
ヒロシが再び、足でボールのリフティングを始めた。
そして、先ほどと同じ要領で蹴り上げた。
今度も見事にボールはリングを通り抜けた。
「やったーー!」
「これで悪くても引き分けだわ!」
手を取り合ってはしゃぐメグとヨーコ。
「お、おい……、ガンタ」
「大丈夫かよ」
ギンゾウとゴンスケが、不安げにガンタを見た。
「バ、バカヤロウ……。大丈夫に決まってんだろ! 見てろ」
ガンタはボールを構えて狙いを定め、最後のシュートを放った。
ボールはリングに当たり、上に跳ねた。
入るか……?
ボールはリングの反対側で再び跳ねると中を通る事無く落下した。
4、5年生チームの勝ちである。
「外れた!!」
「勝ったわーー」
飛び上がるメグとヨーコ。
「く……、認めねえ……」
ガンタがつぶやいた。
「認めねえぞ! 足でやるのなんかルール違反だ! バスケは手でやるって決まってんだ!!」
「そ、そーだ、そーだ」
「ルール違反だ。こっちの勝ちだ」
ガンタに同調し、ギンゾウとゴンスケも吠えた。
「最初は認めておきながら、今更何言ってんのよ!」
「そうよ、負けたからって! みっともない」
メグとヨーコも負けてはいなかったが――
「ねえね、大丈夫か?」
ヒロシの声で、メグとヨーコは、志武姉弟に目を向けた。
手首を押さえているミドリをヒロシが気遣っている。
「2人とも悪いけど、俺たち帰るわ。姉ちゃん、手首痛そうだし、もしかしたら病院いかなきゃいけないかもしれないから……」
ヒロシがメグとヨーコに言った。
「あ……、うん、そうだよね」
「私たちも、帰る。暑くなってきたしね」
ヒロシの言葉を受け、メグとヨーコも帰り支度を始めた。
「おいおい、何だ? 勝ち逃げか? ま、どうせケンカじゃ俺たちにかなわねえだろーからな」
帰ろうとする4人の背中にガンタが大声をぶつけた。
「なんだよ先輩たち。ここを使うのは譲るんだから、もういいだろ。俺たちもう帰るし、こっちの負けで構わないぜ」
「そうよね、もう勝負なんてどうだっていい」
「ああ、やだやだ。負け犬の遠吠えって感じでサイテー」
ヒロシの言葉にメグとヨーコも同調した。
「く……、下級生のくせに生意気なんだよ!」
言われた腹いせに、ガンタは持っていたボールを思いっきり、メグとヨーコに向かって投げつけた。
「きゃっ」
「あぶな……」
ヒロシがその前に立ちはだかった。
そして、オーバーヘッドキックで、ボールを高く蹴り上げた。
ボールは、高く高く上がった。
そして放物線を描いて、先ほどシュート勝負をしていたバスケットゴールへ。
ボールは、スポッと挟まった。
リングとボードの間に。
「先輩、いいのかよ、そういう事して。先生に言いつけちゃうぜ」
「きゃー、志武君、器用!」
「かっこいいーー」
メグとヨーコが、両手を胸の前で組んで歓声を上げた。
「行こうぜ」
ヒロシ、ミドリ、メグ、ヨーコの4人は立ち去った。
「ガンタぁーー、アレ、どーすんだよーー」
「く、くそー、外れねーー」
後に残された、ガンタ、ギンゾウ、ゴンスケの3人は、棒切れでつついて、リングとボードの間にはさまったボールを必死に外そうとしたが、がっちりはまっていてちっとも外れないのであった。