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203.百時草の恋敵

 ツヨシ(大2)とアオイ(大1)が百時草の立居振舞にツッコんでいると、

「ミドリさん」

 ミドリの同級生の男の子が通りかかった。

「あ、ミカエル君」

「あら、ミドリ、お友達?」

「うん、同級生の石森ミカエル君。ほら、こないだ、ダイゴも一緒にお宅にお邪魔した(第110話)」

「そうか。それは妹弟がお世話になりました。ミドリの兄のツヨシです」

「同じく姉のアオイです」

 ツヨシとアオイが、順にミカエルと握手した。

「こ、こんにちは。石森ミカエルです」

 若干緊張気味にツヨシ、アオイと握手を交わすと、ミカエルはミドリにたずねた。

「大きな花だねえ。見た事ないな、なんて言うの?」

「百時草って言うんだって。にーに……、ツヨシ兄さんが、貰ってきたの」

「へー……。あ、そうだ、ミドリさん、こないだ見たいって言っていた、花の本、持ってきたよ」

「え、わざわざ……。ありがとう」

 ミドリとミカエルの様子を、百時草が、じーっと見て(?)いた。

――と、百時草は突然ツルを伸ばし、ミカエルの頭をペシッと叩いた。

「あいた? 今の……」

 頭に手をやり、後ろを振り向くミカエル。

 しかし、背後には志武家の花壇しかない。

 ミカエルは気付かなかったが、ツヨシとアオイは今の様子をしっかりと見ていた。

「見たか?」

「見た」

「あいつ、植物のくせに、やきもち焼いてるぞ」

 だが、ミドリとミカエルはその事に気付いていない。

「暑いねーー、あ、私なんか飲み物持ってくるね」

 家の中にミドリが入ろうとしたが、アオイが制した。

「あ、いいよミドリ。私が持ってくるから。ミドリはミカエル君と話を続けていなよ」

 ほどなく、お盆にジュースのコップを4つ載せて、アオイが出てきた。

「はい」

 まず、ミカエルに渡す

「ありがとう、アオイさん。頂きます」

 談笑しながらジュースを飲むミカエルとミドリ。

 その様子を見ていた百時草が、またもツルを伸ばし、ミカエルのジュースを取り上げると、口形の花の所に持って行き、自分で飲んでしまった。

「あ!」

 驚くミカエル!(当然だ)

 さらにツルをミカエルの体に巻き付け、持ち上げる百時草。

「うわあああ!」

「こら、やめないか、百時草!」

 ツヨシが大声を出した。

「だめだわ、にーに。百時草ったら、ヤキモチ焼いて頭に血がのぼってしまっている!」

「――てか、アオイ、植物なのに血が流れているのか? 大体、頭はどれだ? 花か?」

「ものの例えよ!」

 ミドリが百時草に呼びかけた。

「百時草、やめて! ミカエル君は、私の友達なのよ!」

「……」

 ミドリの声を受け、百時草はミカエルを地上に降ろすと、しゅんとなった。

 みるみる花はしぼみ、枯れ、次いでたくさんの実を付けた。

 まるでビデオの早回しを見ているようだった。

 そして、タンポポのような綿毛を付けると、種たちは大空へと飛んでいった。

「さすが、百時草の名の通り、展開が早いな……」

「でも、ああやって、種を飛ばしても、野生の中で育つのかしら?」

「いや、かなり条件が揃わないと成長できないらしい。だから、珍しい高級な花なんだろう」

 空の彼方へ飛んでいく種を、ツヨシとアオイが見送った。

「ミカエル君、怪我しなかった?」

 ミドリがミカエルを気遣った。

「うん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど……」


 百時草は、条件の良い場所でないと発芽しない。

 飛んでいった百時草の種の1つは、ある好条件の花壇にたどり着いた。

 そこで、目立つ事無く芽を出し、3日目に、あの、人の口を思わせるピンクの花を持つ、3メートル越えの背丈にまで成長した。

「あ、君は!?」

 3日目の朝、その姿を見てびっくり仰天する小学生男子が居た。

 石森ミカエル5年生。

 百時草の種の1つがたどり着いた好条件の花壇とは、石森家の花壇だったのだ。

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