201.ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシの帰還
別室では、ヒロシ(小4)が夏休みの工作、サッカーボール型びっくり箱の仕上げに取り掛かっていた。
ふたを開けた状態で、ヒロシが目を離しているところに、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシが飛んできて、箱の中に入った。
気付かずにふたを閉めるヒロシ。
「うん、なかなかいい出来だ。後は、この中から、びっくりする何かが飛び出すようにすれば……」
言いながらヒロシはふたを開けた。
ぶ~~ん……。
ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシが飛んできて、ヒロシの額に止まった。
「ねえ、ヒロシ、ここにさ、黒い虫来なかった?」
アオイ(大1)、ツヨシ(大2)、キイロ(中2)、チャコ(年中)、ダイゴ(年少)がやって来た。
先ほど立ったまま気を失ったタダシ(小1)は、リビングに寝かせてきたのだ。
ヒロシが、工作中のびっくり箱を前に、こちらに背中を向けて座っている。
「あ、もうだいぶできたじゃない?」
素肌に超々ミニスカートひめっこズキュンコスプレ状態のキイロが、ヒロシの前に回って、作りかけのびっくり箱を見た。
「ね、ヒロシ?」
ヒロシの顔を見るキイロ。
その額にはガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシ。
そして、当のヒロシは白目をむいたまま微動だにせず。
「いたーーーーーーーーー!!」
キイロが叫んだ。
「とお!」
虫取り網を持っていたダイゴが、ヒロシの頭に振り下ろす。
だが、タッチの差で、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシは、またもテイクオフ。
「あっちだ!」
「追えーー!」
部屋を出て行くツヨシ、アオイ、キイロ、チャコ、ダイゴ。
虫取り網を頭にかぶせられたまま気を失ったヒロシを残して。
「ただいまー」
「お昼のパン買ってきたわよー」
玄関にアカネ(高2)とミドリ(小5)が帰ってきた。
兄弟たちの昼食にパンを買いに行っていたのだ。
靴を脱いでいる2人の前に――。
ぶ~~ん……。
ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシが飛んできた。
「な! ミドリ、これは?」
「アカ姉、ゴキブリじゃない!?」
勘違いしたアカネとミドリが、飛んできた黒い虫を叩き落とさんと、たった今脱いだばかりの靴を構えた。
そこへ、ツヨシ、アオイ、キイロ、チャコ、ダイゴが駆けつけてきた。
「よ、よせーー」
右手を伸ばしてツヨシが叫ぶ。
「アカネ、ミドリ、それはゴキブリじゃないわ! 捕まえて!」
「「え?」」
アオイの叫びに、靴を構えていたアカネとミドリの動きが止まった。
その間隙を縫って、開け放してあった玄関扉から、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムが、ぶぶーんと外へ出て行ってしまった。
「やばい! じゅーすーまんえんが!!」
焦るキイロ。
その時。
すぽっ。
ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムが虫捕り網に収まった。
「珍しい虫、捕まえたーー。なんか、やたらツノが多いなあ? 珍種のカブトムシ?」
近所に虫捕りに出かけていたモモコ(小2)が帰ってきたのであった。
「モ……」
「モ……」
モモコの周囲に集まる兄弟たち。
「あれ、みんなどうしたの?」
「でかしたぞお、モモコーー!!」
その場の兄弟たちみんなでモモコを胴上げした。
「?」
宙を舞いながら、モモコは意味が分からない。
昼食のパンを食べながら、12兄弟姉妹はテーブルを囲んでいた。
「全く、Gかと思ってほんとに焦ったよ」
鼻をこすりながらコウジが言えば、
「ほんと。びっくり箱の中から飛んできた時は、マジ焦ったぜ」
と、ヒロシも額を押さえる。
「みんな、どんな時にも冷静さを失っちゃいけないぞ」
長男らしくツヨシがしめた。
「あれ? にーにの肩に、今、黒い虫が居なかった?」
ツヨシの肩に黒い虫がいて、背中に移動したのがダイゴに見えた気がしたのだ。
「また、そのガイ……なんとかが逃げ出したんじゃ!?」
チャコが言うが、
「いや、あまぞんは、飼育ケースの中にいるよ」
ダイゴの言う通り、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムは飼育ケースの中でおとなしくエサを食べていた。
「――と、いうことは?」
ツヨシの背中を覗き込むアオイ。
「あの、にーに……、落ち着いて聞いてね」
「なんだアオイ? まさか……」
「その……、まさかです」
「!」
ツヨシは顔面蒼白になって固まった。
「どわわわあああああああっっ!!」」
弟たち5人は、即行で室外退避。
「そっちへ行った!」
「おのれ、逃がすか!!」
姉妹6人で、今度は本当のG捕り物が始まったのであった。