200.ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシの冒険
「ふー、さっぱりしたな……」
「うん」
一緒にシャワーを浴び終えたハヤト(高1)とキイロ(中2)が脱衣場で体を拭いていた。
ぶ~~ん……。
そこに、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシが飛んできて、ハヤトの頭にとまった。
「あれ?」
「なんだ?」
「アニキ、頭に何かとまったよ」
「頭に?」
「鏡見てみて」
「鏡を……?」
ハヤトは鏡を見た。
髪の毛に何やら大きな黒い虫がとまって、ガサゴソ動いている。
ハヤトも、コウジ同様の勘違いをした。
「ぎゃああああああああっ!!」
「やだ、もしかしてゴキブリ?」
同様に勘違いしたキイロは、床のスリッパをすばやく手に取った。
「たあ!」
黒い虫めがけて、スリッパを振り下ろすキイロ。
だが、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシは、一瞬早くハヤトの髪からテイクオフした。
キイロのスリッパがハヤトを直撃。
ハヤトは気を失った。
もちろんこれは、キイロにスリッパで叩かれたからではなくて、ゴキブリが頭にとまったと勘違いしたショックからなのだが。
声を聞きつけたツヨシ(大2)とアオイ(大1)が、浴室に駆けつけてきた。
「何が……あったの……?」
ハヤトが気を失い、キイロがスリッパを持っている。
「やだアオ姉、私がアニキを気絶させたんじゃないよ」
「やはりここでも、ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシをGと勘違いしたようだな」
またも、顎に手をやり、ツヨシの目がきらりと光る。
「だから、にーに。冷静に分析している場合じゃないって」
「アオ姉もにーにも、どうしたの?」
「説明は後。とにかくキイロも、さっきの虫を捕まえるの手伝って」
「え、ゴキブリを!?」
「ゴキブリじゃないのよ。害虫の身がアマゾンで……、えーと、にーに、なんだっけ?」
「ガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシ」
「そう、とにかくそのガイチューを捕まえるの! 十数万円もするんだって」
「ジュースーマンエン!?」
とりあえずハヤトはそのままにして、ツヨシ、アオイ、キイロは脱衣場を出た。
リビングでは、ひめっこズキュンのビデオをかけながら、タダシ(小1)、チャコ(年中)、ダイゴ(年少)の3人が「ズッキュン・サンバ」を踊っていた――正確にはタダシとダイゴは踊らされていた、だが。
「イエィ!」
ダンスの最後は、この掛け声で、右手を高く掲げる。
タダシが掲げた右手の甲に、脱衣場から飛んできたガイチューラ・ミノタウロス・アマゾン・オオカブト・クワガタムシがとまった。
「!」
それを見たタダシは、コウジ、ハヤト同様、それをGと勘違いした。
どうも早トチリは兄弟共通のようである。
「ふうー。じゃ、あんちゃん、ダイゴ。次は『ひめっこルンバ』をやるよ」
チャコが、タダシとダイゴに声をかける。
ところが、タダシが「イエィ!」のポーズのまま動かない。
「あんちゃん?」
「チャコちゃん見て! あれ!」
ダイゴが、タダシの右手の甲に止まっている黒い虫を指差した。
既にタダシは「イエィ!」のポーズのまま固まって気を失っていたのである。
「Gだ!」
ここでダイゴも勘違い。
「おのれ、ゴキブリ! よくもあんちゃんを! この『ひめズキャノン』で粉砕してやる!!」
チャコは即座に、ひめずキャノン――おもちゃの大砲――を持ち出すと、タダシの右手の甲に狙いを定めた。
そこへ、ツヨシとアオイとキイロが飛んできた。
「あ、チャコだめ!」
「え?」
アオイの制止に、大砲を構えたままチャコは振り返った。
振り返った拍子に引き金は引かれ、大砲からはスポンジボールがポンと飛び出して、ツヨシの顔面に直撃した。
「ぶっ!!」
のけぞるツヨシ。
「だめよチャコ。その黒い虫は、ゴキブリじゃなくて害虫……、えーと」
言いよどんだアオイにキイロが続けた。
「アマゾンのカブトムシでクワガタムシなんだって! すっごく値段が高いらしいの。捕まえないと!」
「それは分かったけどアネキ……」
キイロをまじまじと見てチャコがたずねた。
「どうして何も着てないの?」
「え、あ、やだ、私、急いでいたから……」
「これ着る?」
チャコは、ひめっこズキュンの衣装を一着キイロに渡した。
ひめっこズキュンたちがパワーアップ変身した時の衣装で、もともとの衣装の上から装着できるよう、大きめに作られている。
ぴっちぴちだが、何とかキイロでも着ることができた。
超々ミニスカート状態だが。
「あの、アネキもチャコちゃんもお取り込み中悪いんですけど……」
ダイゴが姉2人を本来の目的に呼び戻す。
「その、あまぞんが、もう、あんちゃんの手から飛んでいきました」
「「ええーーーーーーーーーっっ!?」」
のけぞって倒れていたツヨシが体を起こし、顎に手をやって目をキラリと光らせながら言った。
「ふ、甲虫類の割りに、素早いヤツだ」
「だからにーには、何で妙に冷静なの!」