197.お姫様抱っこ、お風呂でなら――
「お姫様抱っこの橋」
表示を見つめるアカネ(高2)とタダシ(小1)。
小学1年生のタダシには、これらの漢字が読めない。
「アカ姉、あれ、なんて書いてあるの?」
「おひめさまだっこのはし、だね」
「おひめさまだっこ?」
「お姫様が男の子を抱っこして渡る橋だよ」
「アカ姉……、それ違うでしょ?」
「え……、バレた?」
「おひめさまだっこは、男が女の人にするもんでしょ。僕だってそれくらい知ってるよ」
「まあ、そうだけど……。ちょっと私たちの場合……、ねえ?」
「う~~ん……」
さすがに、小学1年生が高校生をお姫様抱っこするのには無理があった。
といって、ここをスルーしてしまうと、タダシの男の子としてのプライドを傷付けてしまうかもしれない。
アカネも、どうしたものかと考えあぐねていると――。
「あ、アカ姉ぇーー、あんちゃーーん!」
向こうから声がした。
ダイゴ(年少)だった。
アオイ(大1)とダイゴのペアも、ここにやって来たのだ
「どうしたの、アカネ?」
「アオ姉、この橋。どうしたものかと思って……」
アオイも表示を読んだ。
「なるほど……。確かに私たちのペアは、これは無理だわ」
「といって、スルーしちゃうのもどんなもんかと……」
「そうだよねえ……」
アオイも考え始めた。
ほどなく、アオイは何かを思いついた。
アオイの提案で、ここは、アカネとタダシ、アオイとダイゴで、それぞれ手をつないで渡る事で済ませた。
その夜、自宅の浴室にて。
アオイ、アカネ、タダシ、ダイゴが入っていた。
「じゃあ、タダシがアカネをお姫様抱っこするのからね」
「うん」
タダシが湯船に入り、続いてアカネが入った。
タダシが両手を構え、そこにアカネが仰向けに体を預けた。
「ほら、タダシにもアカネをお姫様抱っこできたよ」
「ほんとだーー」
お湯の中ならば、小学1年生のタダシにも、高校生のアカネをお姫様抱っこすることができたのだ。
「ありがと。タダシにお姫様抱っこしてもらえて嬉しい」
アカネがタダシに微笑みかけた。
タダシもにっこりした。
お湯に入るのを交替。
今度は、ダイゴが同様にアオイをお姫様抱っこした。
お湯の中とはいえ、さすがに大学生をお姫様抱っこするのは3歳児の手に余った。
それでもどうにか、ダイゴがアオイをお姫様抱っこしている形は取れた。
「嬉しいな。ありがと、ダイゴ」
「うん、僕も。これで、僕たちにも、他の兄ちゃん姉ちゃんたちとおんなじように『しあわせなみらいがおとずれる』よね?」
4人とも満足だった。