195.お化け屋敷は一目散に
遊園地デート当日。
園内には様々な男女2人組がいた。
若い男女の2人組が多かったが、中には明らかに親子と分かる組み合わせや、おじいちゃんと孫娘みたいなペアも見られた。
「いろんな組み合わせがあるもんだね」
ミドリ(小5)が辺りを見回して言った。
「じゃ、ここからはそれぞれのペアで自由行動ね。何かあったら、お互いケータイで連絡ということで」
アオイ(大1)の言葉で、志武12兄弟は6組の男女ペアに分かれた。
園内には、カップルを意識したイベントがいくつか仕掛けられていた。
例えばお化け屋敷。
お化け屋敷では、男女がお互いの手首を赤い紙テープでつなぐ。
これが「運命の赤い糸」で、この糸(紙テープ)を切る事無くお化け屋敷から出て来られたら、2人には幸せな未来が訪れるという設定だった。
ちなみに志武姉妹はみんなオバケが大嫌い。
志武家の男6兄弟はみなゴキブリが大の苦手(第161話)だが、志武6姉妹はオバケが超苦手なのであった。
アオイとダイゴのペアが、お化け屋敷の前を通りかかった。
「あ、アオ姉、僕、あそこに入りたい」
ダイゴがお化け屋敷を指差した。
「え……。ダイゴ、あんな所に入りたいの?」
「うん」
「いや……、やめておこうよ、あれは」
「大丈夫だよ。アオ姉がついててくれるもん」
つぶらな瞳でダイゴがアオイを見上げる。
こんな瞳で見つめられたら断れない!
結局、アオイはダイゴとお化け屋敷に入ることになってしまった。
2人の手首は1メートルくらいの赤い紙テープで結ばれている。
ガタンッ!
大きな音を立てて、頭に三角の白い布を着けた女性の幽霊の人形が横から飛び出してきた。
「ひ!」
アオイが、思わずダイゴにしがみ付く。
「アオ姉、あれは作り物なんだよ」
「わ……、わ……、分かってるわよ」
アオイは、ぜえぜえ言いながら苦笑いする。
通路をまたしばらく進む。
今度は、天井から血だらけの男が逆さ吊りで降ってきた。
「きゃああああっ!」
アオイはダイゴを小脇に抱えると、全速力で走り出した。
「あ、アオ姉、まだ全部見てないよ」
「もーいー、出るううう!!」
ダイゴを抱えて、やっとこさ、お化け屋敷の出口からアオイは出て来た。
見ると前方に、小さな男の子をおんぶしたまま、肩で息をしている、髪の長い、見覚えのある若い女性がいた。
「あ、アカネ?」
アオイに声をかけられて振り向いたその若い女性は、思った通り妹のアカネ(高1)だった。
「あ、アオ姉?」
アカネがおぶっているのは、弟のタダシ(小1)。
「あ、あんちゃん!」
アオイの脇に抱えられながら、ダイゴが兄を呼んだ。
「おー、ダイゴ」
アカネの背中からタダシが返事する。
「あんちゃん、お化け屋敷おもしろかった?」
「それがあんまりよく見られなかったんだ。アカ姉におんぶされて、あっという間に出てきちゃったから」
「僕もーー」
ダイゴとタダシが、じぃーっとアオイとアカネを見る。
「や、やーねー、ここは、紙テープを切らずに出て来さえすればいいのよ」
「そ、そうそう。目的は果たしたんだから。これでみんな幸せになれるわ」
アオイとアカネの言う通り、赤い紙テープは、くしゃくしゃにはなっていたものの、ちぎれず無事だった。
とりあえず、お化け屋敷から無事脱出できたアオイとアカネが、今、幸せなのは間違いなかった。