187.もしかして……?
ヒロシ(小4)とモモコ(小2)はラジカセを持って河原に来ていた。
シブリンズのダンス練習だ。
音楽をかけて踊っていると、後ろから声をかけられた。
「モモコじゃん」
ヒロシとモモコが振り返ると、モモコの同級生サキが立っていた。
「あ、サキ」
「モモコ、今踊ってたの、シブリンズの曲だよね?」
「あ……、うん……」
志武兄弟がネットアイドルのシブリンズということは、一般には明かされていない。
テレビやイベントへの出演の効果もあって、最近はシブリンズもだいぶ有名になってきた。
「もしかして、モモコ……」
まずい!
まさか正体がバレたのか?
ヒロシとモモコは内心焦った。
「シブリンズのファン?」
ずっこけたのは心の中だけにしておいて、モモコは答えた。
「そ、そうなんだ。ちょっと真似っこしてみたの。ね、ヒロ兄?」
「あ、ああ、うん、そうそう。音楽に合わせてリフティングすると、これがまたうまくできるんだよ」
そう言ってヒロシは、サッカーボールを、膝や踵でポンポン蹴り上げた。
「すっごーい。ヒロシ君、器用!」
サキが目を丸くする。
「ヒロシ君、サッカーだけじゃなくてダンスもするの?」
「あ……、うん、まあ、妹に付き合って、たまに」
もともとシブリンズのメンバーになったのだって、妹のモモコやチャコ(年中)のダンスに合わせてリフティングをしていたのがきっかけだったのだ。
「ね、あたしも一緒に踊っていい?」
言いながらポシェットを外して、サキは踊る気満々だった。
「あ、うん、いいけど……」
モモコがヒロシをつついて小声で言った。
「ヒロ兄、マズイよ。正体バレるかも」
「わざと下手に踊るしかないだろ」
「そっか。ヒロ兄、それ得意分野だった」
「あのな」
ラジカセのスイッチが入った。
シブリンズの新曲だ。
踊り始める3人。
最後に決めポーズ。
すると、パチパチパチと、何人かの拍手の音がした。