173.甦った記憶
「はい、オッケーです。フューチャー3の皆さん、お疲れ様でしたーー」
テレビ局のスタジオに声が響いた。
フューチャー3の歌の録画撮りが終わったのだ。
歌ったのはテレビアニメ「ひめっこズキュン」の新主題歌。
ひめっこズキュンは、3人組の女の子戦士。
そしてフューチャー3もまた女の子3人組のアイドルということで、コラボレーションによるメディアミックス展開である。
もとより、チャコ(年中)は「ひめっこズキュン」が大好き。
モモコ(小2)だって嫌いじゃない。
2人は、自分たちもまたアイドルであることを忘れ、フューチャー3が「ひめっこズキュン」の新主題歌を歌って踊る様子を食い入るように見ていた。
「じゃ、次はシブリンズの皆さん、お願いします」
スタッフに呼ばれ、志武パンク(ハヤト)、らんぷ(キイロ)、キック(ヒロシ)、おんぷ(モモコ)、じゃんぷ(チャコ)の5人はスタンバイした。
曲が始まり、5人は歌って踊りだした。
その様子を、もう出番の終わったフューチャー3のパル(17歳)、ピノ(16歳)、ポロ(15歳)の3人らが残って見ていた。
シブリンズのあの子たちには、どこかで会ったことがある。
でもそれがどこだったのか思い出せない。
それが気になり、思い出すきっかけがつかめればと、フューチャー3はシブリンズを見ていたのである。
スタジオの片隅からは、ツヨシ(大2)とコウジ(中1)も心配そうに兄弟たちの様子を見守った。
なにしろテレビ初デビューだ。
「はい、オッケー! 良かったですよ」
スタジオに声が響いた。
シブリンズの撮りは一発OKだった。
ほっとしたシブリンズの5人は、スタジオの片隅に居たツヨシとコウジの元へ駆け寄った。
(あっ)
その様子を見ていたパルは、ツヨシの顔を見て思い出した。
あの背の高い青年。
確かに覚えがある。
あれはそう、ショッピングモールでのキャンペーンイベントの日。
自分たちの真向かいで、自分たちのダンスを完全にコピーして踊っていた幼い2人の女の子たちがいた。
あの女の子を連れていたのが、あの青年だったのだ。
自分たちが必死に覚えた新曲の振り付けを、初見で完璧にコピーされた。
しかも、あのステージでの観客の注目は、自分たちよりあの子たちに向いてしまった。
さらに、その様子が動画サイトにまで投稿され、一時期かなり評判になっていたのである。
コピーした方が、本家より注目を浴びていたのが正直悔しかった。
確か、あの時は、あの女の子たちも当然素顔だったはず。
顔は思い出せないが、あの青年のように、実際にその顔を見れば、記憶は甦るに違いない。
「思い出したわよ、ピノ、ポロ」
「「え?」」
「ショッピングモールでのステージイベントの時、客席で踊っていた女の子2人。シブリンズの小さい2人の正体は、あの子たちだったのよ」