162.お兄ちゃん大好き
「――っというわけで、うちのアニキ、オタクでちょーキモいんです」
「へえー、山川先輩がね……」
放課後の高校の生徒会室。
志武アカネ(高2)ら生徒会の面々が、雑談をしていた。
話は、自分たちの兄弟のことになり、今、1年生で書記の山川ユミが、3年生の兄、山川ユウイチのことを話していたのである。
ユウイチは、体格のいいスポーツマンタイプの高校生で、とても外見からはオタクに見えない。
だが、妹のユミによれば、アニメ大好きの超オタク高校生なのだそうだ。
「ところでユミ、質問なんだけど」
「なんですか、志武先輩」
「ユミ、いつも山川先輩のこと、『アニキ』って呼んでるの?」
志武家では、ハヤト(高1)だけが「アニキ」と呼ばれている。
でもこれは、自然発生した呼び方ではなく、兄弟たちで後から決めた人工的ルールだ。
ユミの「アニキ」という呼び方に興味のわいたアカネは、聞いてみたのである。
一同の視線がユミに注がれた。
「そういえば、実際にお兄さんのこと『アニキ』って呼ぶ人見たことありませんよね」
「うちはまあ、小さい頃からのなごりでいまだに『お兄ちゃん』です」
「うちなんか、呼び捨て」
口々に自分の兄弟の実情を話す生徒会の面々。
「いえ、あの……、うちもその『アニキ』とは呼んでません」
ユミは、少し小さな声になって言った。
「へえー、じゃあ、やっぱ『お兄ちゃん』とか?」
「いえ、あの……、その……、にーに……」
最後の方、ユミは消え入りそうな小声になり、一同には聞こえなかった。
「ごめん、聞こえなかった。も1回言って」
アカネが聞き返す。
「その……、あの……、『にーに』です!」
顔を赤らめてユミは言った。
「えーー」
「にーにー」
「やだ、かわいいーー」
萌える生徒会の面々。
「違うんです! あの、小さい時からの習慣が、ただずっと残っただけというか……。今さら別の呼び方もできなくて……、それで……」
しどろもどろになりながら、弁明するユミ。
オタクだのキモいだの言いながら、その呼び方はどう考えてもお兄ちゃん大好きだろと思った、生徒会の面々であった。