161.Gにはミント
「ぐわああーー、出たあ!」
「ぎゃああっ、助けてぇぇ!!」
志武家の男子たちが大声を上げながら部屋から出てきた。
「ど、どうしたのよ?」
声を聞きつけてアカネ(高2)とキイロ(中2)とミドリ(小5)がやって来た。
ツヨシ(大2)、ハヤト(高1)、コウジ(中1)、ヒロシ(小4)、タダシ(小1)、ダイゴ(年少)の志武家の男子6人が、揃いも揃って廊下に出ている。
「出たんだよ」
顔に冷や汗をにじませながらハヤト(高1)が言った。
「出たって?」
問い返すキイロ。
「Gが」
「ああ、Gねーー」
キイロが「しょうがないな」という顔をした。
Gとは志武家の男子たちが使っている暗号で、ゴキブリのことだ。
「ゴキブリ」と口にするのも恐ろしいので「G」と呼んでいる。
別に志武家の女子たちだってゴキブリ退治が得意なわけではないが、こればっかりは男子がすっかりアテにならないので、いつの頃からか志武家では女子が対応することになってしまっていたのだった。
「しょうがない。じゃあ、キイロとミドリは向こうに回って。私はこちらから」
アカネとキイロとミドリは、手に手に新聞紙を丸めて持ち、部屋にそうーっと入った。
「どこ?」
「そこ。ドアのかげ」
キイロに問われて、ツヨシが指差した。
空手の達人ツヨシも、ゴキブリはからっきしダメだ。
「もー、大の男がこんなに居るのに」
「か弱い女の子の私たちが――」
「どうして、こんな……、あ、キイロいた! そっち行ったよ」
「逃がすか!」
「今よ!」
「おおりゃああああ!!」
バシイッ!!!
アカネとキイロとミドリの見事な連携プレーにより、Gは天に召された。
フローリングの上には、キイロの一撃により(以下、描写省略)。
「そういえばさ、Gはミントが苦手だって、こないだ読んだわよ」
フローリングの上をきれいにし終えると、ミドリが言った。
「なに? ミントが苦手だと」
「それはいい事を聞いた」
「さっそく対応しよう」
言うやいなや、ツヨシ、ハヤト、コウジは、どこかへ出かけていった。
翌日。
志武家では、ツヨシら3人が買ってきたミントの鉢植えが、家のあちこちに置かれていたのであった。