141.えらいえらい
泣き声が聞こえたので、アオイ(大1)はキッチンに向かった。
見ると、ジュースがこぼれて、チャコ(年中)とダイゴ(年少)が泣いている。
2人とも服がジュースでびしょびしょだ。
「いったい、どうしたの? ケガはない?」
弟妹たちがケガを確認していない事を確かめてから、アオイは事情を聞いた。
ダイゴは、
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが」
と泣き、チャコは、
「ダイゴが、ダイゴが」
と泣いている。
落ち着かせてから事情を聞くと、こうだった。
ダイゴがのどが渇いたというので、チャコが冷蔵庫からジュースを出してコップについでやろうとしたのだ。
ところが、うまく注げずにコップを倒して、びしゃびしゃにしてしまった。
ダイゴはびっくりして泣いてしまい、チャコもうまくできなかった事から泣いてしまったのである。
「そうかーー、ダイゴにジュースあげようとしたんだね。さすがお姉ちゃん、えらい、えらい」
アオイは、弟妹2人を膝に抱き、チャコの頭をなでてやった。
アオイにも同じ覚えがある。
幼かった頃、アカネやハヤトに何かをしてやろうとして失敗してしまった事が。
でも、それを母親に責められた事は無かった。
逆に弟妹たちに何かをしてあげようとした事をほめられ、こんな風に母親からなぐさめられていたのだ。
だから今、アオイもチャコにそうしている。
「一緒にお風呂に入ろうか」
アオイは風呂をわかすスイッチを入れ、まず自分が服を脱いでから、チャコとダイゴのジュースまみれの服を脱がせると、一緒に浴室に向かった。
夏なので、風呂は直ぐにわいた。
一緒に入浴している内に、チャコとダイゴの機嫌もすっかり直った。
風呂上がりのジュース。
もう1度チャコがつぐことに挑戦した。
今度はうまくできた。
めでたし、めでたし。