133.本格的カレー屋さん
アオイ(大1)に連れられ、コウジ(中1)とヒロシ(小4)は服を買いに言った。
ヒロシの「志武キック」の衣装用だ。
正直、志武兄弟の男性陣は服のセンスがイマイチなので、女性陣に選んでもらうのが通例になっている。
いくつか服を選んで帰る時、オープンしたばかりのインドカレー屋が目に入った。
「お姉ちゃん、ちょっとおなか空いちゃったよ」
ヒロシがアオイに甘えた声を出す。
「う~ん、そうだね。食べていっちゃおか?」
「いいね」
「賛成」
アオイの言葉に、コウジとヒロシは大喜び。
店は、インド人が経営する本格的カレー屋だった。
出てきたカレーを見て、
「おいしそー」
「いいにおい~」
「いただきまーす」
と、食べようとした3人だが――。
スプーンが無い。
「お姉ちゃん、スプーンが無いよ」
ヒロシが小声でアオイに言った。
「あ、ホントだ、店員さんを呼ぼうか」
店の奥に声をかけようとするコウジをアオイが小声で止めた。
「待って」
「どうしたの、姉さん?」
「ここは、インドの人が経営する本格的なカレー屋さんでしょ」
「うん」
「うん」
「インドの人は、手でカレーを食べるのよ」
「え、お姉ちゃん、ほんと?」
「そういや、僕も聞いた事あるな」
アオイの言葉に驚きながらも納得するヒロシとコウジ(つまり、ギャフンの状況)。
「だから、きっと、このお店もそうなんだわ」
「そうかー」
「なっとくー」
「じゃあ、インド式でいただきましょう」
「うん」
「うん」
3人は、生まれて初めて素手でカレーライスを食べ始めた。
「ごはんがちょっと熱いね」
「でも、これはこれでおいしいかも」
「ちょっと新鮮ねー」
と、インド式を満喫している3人の元に、店員が申し訳なさそうにやってきて言った。
「スミマセーン、すぷーんオ出シスルノヲ忘レテシマイマシタ」