132.ギャアッと驚き、フーンと納得
「僕、1度試してみたい事があるんだよね」
朝食のトーストをかじりながらヒロシ(小4)が言った。
「試してみたい? 何を?」
ミドリ(小5)がたずねる。
「よくさあ、マンガやアニメで食パンくわえて、服を着ながら『遅刻だ、遅刻だ~~』って走っていくやつあるじゃない。あれ」
「あれは、マンガ上の表現でしょ。実際はできないわよ、あんなの」
「そうかな」
「そうよ。『ギャフンと言わせてやる』とかいうけど、現実に『ギャフン』と言う人がいないのと同じくらい、ありえない」
「ふーん。じゃあ、実際にやってみたら、どうなるだろ」
「食パンくわえながら走ったら、噛み切っちゃうから、落とすよ、きっと」
「じゃあ、コッペパンなら噛み切らないかな」
「あ、そうだね。コッペパンなら……って、パンの種類の問題じゃないし」
「もし、パンくわえて、走っている人いたら、姉ちゃん、ギャフンって言う?」
「まあ、びっくりはするかな。そして、へえー、ホントにいるんだあ……ってある意味感心して納得しちゃうね」
それまで黙って2人の会話を聞いていたツヨシ(大2)が口を開いた。
「今、ミドリが言ったことこそ、まさにギャフンということだよ」
「え?」
「どうして?」
ツヨシは2人に説明を始めた。
「ギャフンというのは、ギャアという驚きと、フーンという納得が合わさった言葉なのさ。だから、実際にパンくわえながら走っている人がいたら、びっくりして、『へえ、いるんだあ』と納得するというのは、まさにギャフンというのにぴったりな状況なんだ」
「へえーー、そーなんだ」
ヒロシが驚いた。
「ツヨシ兄ちゃんくわしいね」
ミドリが感心した。
「こないだ、たまたま調べたんだよ。今の俺の説明でびっくりして納得したか?」
「うん」
「うん」
「だったら、こういう時は?」
ミドリとヒロシは顔を見合わせると、声をそろえて言った。
「ギャフン!」