125.格闘技の心得なら
「あ、あのぬいぐるみ、可愛いーなー」
ショッピングモールに買い物に出たアカネ(高2)とハヤト(高1)。
通りかかったゲームセンターのクレーンゲーム内のぬいぐるみを見て、アカネが言った。
ちょうど、先客の男女2人組が取り逃したところだった。
「俺、挑戦してみようか?」
「えー、取れるの?」
「取れたら姉さんにプレゼントするよ。こないだバイクで送ってもらったお礼に」
ハヤトは硬貨をゲーム機に投入した。
タイミングを見計らって前後左右にクレーンを動かすボタンを操作する。
そして――。
見事1回で、ハヤトはそのぬいぐるみを獲得したのであった。
「はい――」
ハヤトがぬいぐるみをアカネに手渡そうとした時だった。
「おっと、待ちな」
ガラの悪い若い男女が、からんできた。
ハヤトの前に、クレーンゲームをしていた2人組である。
「それ、俺が取りやすい位置まで動かしておいたからこそ、1回で取れたんだよな? よこしな」
男が理不尽な言いがかりをつけてきた。
「あんた、怪我しない内に言うこと聞いた方がいいよ」
女がにやにやと下品に笑う。
「ま、ちょっと向こうで話、しよっか」
男女は、ハヤトとアカネを建物の裏に連れていった。
「ほら、それ、さっさと寄こしな」
男が手のひらをハヤトに向けて上下させる。
ぬいぐるみは女が欲しがっているのだろう。
女の前でいいかっこしたいのだ。
「……」
ハヤトはぬいぐるみを持ったまま黙っている。
「俺、格闘技の心得があんだよ」
男は、渡す気配を見せないハヤトの胸倉を掴んだ。
ハヤトは、あっという間にその手を取り、男の背中に回すと、男を正面から壁にドンとたたきつけ、言った。
「俺も」
ハヤトは背後から男の襟首を締め上げた。
「!」
息のできない男は悲鳴も上げられず、必死に壁を叩いた。
ハヤトが放すと、男は地面に四つん這いになってゼェゼェうめいた。
ハヤトはそれ以上、男女にかまわず、アカネと共に立ち去った。
「姉さん、ちょっとケチがついちゃったけど、これ」
ハヤトはアカネにぬいぐるみを手渡した。
「ありがとう」
「さっきのヤツ怪我してないかな?」
「手加減したんでしょう?」
「いやあ、頭にきたから、けっこう本気で」
「ハヤトがいてくれて良かった」
「早いとこやっつけないと、姉さんがカメンダーレディに変身して、地球のみんなに正体がばれてしまうところだったからな」
「ふふふ、そうだね」