116.頼む、送って!
「大変だ! 寝過ごした!!」
ハヤト(高1)は飛び起きた。
今日は助っ人を頼まれていたサッカー部の試合の日。
10人しかいない部なので、ハヤトが行かなければ試合ができない。
試合会場には電車を乗り継いで行かなければならないが、今からでは試合開始に間に合いそうに無い。
「兄さん!」
ハヤトはツヨシ(大2)の元へ行った。
だが、徹夜で仕事を終えたばかりで、ツヨシも隣で寝ているアオイ(大1)も起きそうに無い。
「姉さん!」
ハヤトはアカネ(高2)の元へ行った。
何度か揺り起こすと、アカネは目を開けた。
「どうしたの?」
「マズイんだよ、寝坊した。このままだと試合に遅刻だ!」
「――で?」
「姉さん頼む、送って!」
ハヤトは顔の前で両手を合わせた。
「兄さん姉さんは?」
「2人とも起きないんだよ」
「あー、徹夜したみたいだから。私は途中で寝ちゃったけど」
「頼むよ。姉さんが生徒会長を務める高校のことでもあるんだしさ」
「もー、しょうがない! 夕べ、アイスも差し入れてもらったしね」
アカネは、がばっと起きてパジャマを一気に脱ぐと、素早くツナギを着た。
「行くわよ!」
「サンキュー、恩に着る」
バウンッ!
爆音を上げて、志武家から400ccのオートバイが発進した。
運転はアカネ。
後部座席にハヤト。
土曜朝の道路は空いているので、走行はスムーズだった。
線路と平行して走る道にきた。
本来なら、ハヤトが今朝乗るはずだった電車が走る線路だ。
「あの電車じゃないの?」
前方に電車が見えた。
「あ、そうかも!」
アカネのオートバイが電車と並走する。
電車の中を見ると――、サッカー部の部員たちが乗っていた。
「やった、追いついたね」
アカネが言った。
電車の中の部員たちも、電車に並走するオートバイの存在に気付いた。
「おい、あれ、ハヤトじゃないか?」
「バイク運転してんの誰だよ」
「女だぞ」
「あれ、ハヤトの姉ちゃんだ」
「て、ことは、志武会長か!」
「おーい!!」
部員たちは、窓ごしに手を振り始めた。
「うわ、あいつら恥ずかしいだろ」
ハヤトが言うが、
「恥ずかしかったら、今後は寝坊しないように気をつけることね」
と、姉ぶってアカネが言った。
試合開始には十分間に合った。
「会長、かっこいっすねー」
「今度俺も乗せてーー」
「あ、試合見てってくださいよー」
アカネの周りにサッカー部員たちが集まる。
「う~ん、でもツナギ着てると暑いから……」
「脱げばいいじゃないですか」
「脱げないの。あわてて来たから、素肌に直接着て来ちゃったんだよね」
「すはだにちょくせつ……」
部員たちが妄想をたくましくする。
「お前ら何想像してんだよ!」
ハヤトが言った。