107.つんつん
アカネ(高2)、コウジ(中1)、ヒロシ(小4)、タダシ(小1)、坂野リョウの5人はいつの間にか志武兄弟の家の前まで来ていたのだ。
そうしたら、家の前に人がいっぱいいる。
それは、アオイ(大1)、ハヤト(高1)、キイロ(中2)、ミドリ(小5)、モモコ(小2)、チャコ(年中)、ダイゴ(年少)、それにアカネの同級生の友人でリョウの妹マリだった。
「みんな、うちの前でどうしたの?」
「あ、お帰り」
アオイが今帰ってきた弟妹4人に声をかけた。
「あら? こちらは……」
リョウを見てアオイが言う。
「あ、すみません、突然やってきて。アカネさんの高校の3年生で坂野リョウと言います」
リョウは皆に挨拶しながら内心驚いていた。
こ、この人数……、これが全員兄弟なのか?
「あ、お兄ちゃん」
マリがリョウに声をかけた。
「お兄ちゃん、なんでアカネと一緒に帰ってきてるのよ?」
ちょっと意味ありげにマリがリョウに聞いた。
「いや、たまたま帰り道が一緒で……」
「一緒って……、私たちの家、こっちまで来たら来過ぎでしょ」
「それは……、おまえだってそうだろ。おまえこそ、どうしたんだよ」
「え、わ、私は……」
マリは口ごもった。
「マリさんのお兄さん、マリさんは私たちとおしゃべりしていたら、うっかりここまで来ちゃったんですよ」
キイロが助け舟を出した。
「ねえ、道の真ん中にこんなにいたら通行の邪魔だよ、中に入らない?」
コウジが皆に声をかけた。
「それもそうだね。マリと先輩も寄っていきます?」
アカネが、坂野兄妹に言った。
え、そ、そんな……、志武君の家に上がれるの……?
え、そ、そんな……、志武の家に上がれるのか……?
坂野兄妹は同時に同じ事を考えた。
坂野兄妹の内心の逡巡などに気付くはずもなく、兄弟たちはぞろぞろと家の中に入り始めた。
坂野兄妹が動けないでいると、
「さ、どーぞ、どーぞ」
後ろから、モモコとタダシがそれぞれマリとリョウを押した。
「だ……、大家族なんですね。全然知りませんでした」
出された紅茶を一口飲み、マリが言った。
「隠していたわけじゃないんだけどね。話すとみんなびっくりするし、いろいろ説明しだすと長くなるから」
アカネが言う。
リビングのテーブルには、アオイ、アカネ、ハヤト、リョウ、マリの5人が座った。
他の兄弟たちは、リビングの絨毯の上に寝っ転がってじゃれ合っている。
「実はね、出かけているんだけど兄があと1人いるんです。だから12兄弟」
アオイがリョウとマリに説明する。
「12兄弟……」
リョウもマリも言葉が無かった。
外から車が停まる音がした。
「あ、帰ってきたみたい」
アオイの声と同時に、モモコ(小2)、タダシ(小1)、チャコ(年中)、ダイゴ(年少)らが玄関に走っていった。
「ただいまー」
「兄ちゃんお帰りー」
といったやり取りが聞こえた後、長身の青年がリビングに姿を現した。
長男ツヨシ(大2)である。
「あれ、お客さん?」
ツヨシがリョウとマリを見て言った。
リョウとマリは立ち上がって挨拶をした。
「は、はじめまして――。あの……、弟さん妹さんと同じ高校の、坂野リョウと――」
「――妹のマリと申します」
体に幼い弟妹たちをまとわりつかせながらツヨシが挨拶を返した。
「兄のツヨシです。いやあ、うるさくてすみませんねーー」
「そんな……、みんな仲良さそうでいいなって思いました」
マリが言った。
「いやいや、けんかもしょっちゅうですよ――」
そのツヨシの言葉をさえぎるように、キイロが甘ったるいアニメ声で訴えた。
「ツヨシ兄さん、ヒロシが私のこと、つんつんするぅ~~」
「してないよ、今のはタダシだよ」
「今のヒロシ兄ちゃんじゃん。僕はさっきだけ」
キイロとヒロシとタダシが絨毯の上でじゃれ合っている。
「――もう、こんな感じで」
ツヨシが言った。
「あ、あの……、そろそろおいとまします」
リョウが言った。
「そうですか? あ、もし良かったら車で送っていきますよ」
ツヨシが言ったが、
「いえ、歩いて帰れる距離ですから……。本当にお邪魔しました」
坂野兄妹は、志武家を後にした。
並んで歩く坂野兄妹。
2人で歩くのは久しぶりだった。
「驚いたな、志武のとこ」
「うん。でもなんか、いろいろ分かってちょっと良かったかも」
「そうだな」
「志武君とこ、みんな兄弟仲良しだね」
「ああ」
「私たちも小さい頃はああだったのに、いつの間にかあんまり話とかしなくなっちゃってたね」
「うん」
「これからはもっと話とかしよっか」
「そうだな。一緒に帰ったりもするか? 志武んとこそうだったぞ」
「う~ん、時々なら」
今日の出来事をきっかけに、少しばかり離れていた坂野兄妹の距離も短くなったようであった。