106.なでなで
アカネ(高2)、コウジ(中1)、坂野リョウの前を、サッカーボールを持った小学生の男の子2人が歩いている。
「ヒロシーー、タダシーー」
呼ばれた2人は振り向いた。
やはりアカネの弟のヒロシ(小4)とタダシ(小1)だった。
ヒロシとタダシも直ぐに兄姉たちに気付いた。
「あ、姉ちゃん兄ちゃーーん!」
タダシが走ってくる。
アカネがしゃがんでタダシを抱き止めた。
頭をなでなでしてやる。
「お姉ちゃん」
タダシは幸せいっぱいの顔でアカネに抱かれて甘えた声を出した。
「姉ちゃんたちも今帰り?」
サッカーボールを持っているヒロシが聞いた。
「そうだけど――」
立ち上がりながらアカネが2人に言った。
「2人とも、ちょっと帰りが遅いんじゃない? 家で心配するでしょ」
「ごめん、ちょっとサッカーに夢中になっちゃって」
ヒロシが頭をかきながら答え、次いでリョウの事を聞いた。
「姉ちゃん、この人は?」
「姉さんの高校の先輩で坂野さんだって」
代わりにコウジが答えた。
「そうなんだ。こんにちは、弟の志武ヒロシです」
ヒロシはリョウに挨拶し、
「ほら、タダシもあいさつ」
弟にも促した。
「こんにちは。志武タダシです」
タダシもリョウにあいさつした。
「こんにちは」
リョウはしゃがんで、ヒロシ、タダシと同じ目線になり、挨拶した。
「君たちは、サッカーやるんだ」
ヒロシの持つサッカーボールを見てリョウが言った。
「俺、少年サッカーチーム入ってるから。今もタダシと練習してたらちょっと遅くなっちゃって」
「そうなんだ。僕にも妹がいて、サッカーやってるよ。女の子だけどサッカー好きなんだ」
「俺のチームにも女子いますよ」
リョウとなぜか小4のヒロシとで話がはずんでしまった。
リョウとしてはアカネと話しながら帰りたかったのだが……、小学1年生のタダシがアカネと手をつないでうれしそうに話をしながら歩いているのに割り込む訳にもいかない。
「あ」
アカネがまたまた声を上げた。