104.恋人ですか
呼びかけたのはチャコ(年中)の声だった。
「アニキお帰り~~」
チャコがハヤト(高1)に駆け寄る。
「チャコ、ただいま」
ハヤトがチャコを抱き止める。
「アニキ、かたぐるま~~」
チャコはここでもハヤトの呼び方はアニキだった。
「しょうがないな」
いつか、ツヨシ(大2)が弟妹たちのスキンシップを心がけるようにしていると言っていたことがあった。
ハヤトも兄にならってできるだけ弟妹たちとのスキンシップを心がけるようにしている。
「兄さんのカバン、私持つね」
「頼む」
ハヤトのカバンをキイロ(中2)が持った。
「2人でどうしたんだ?」
チャコを肩車し、ハヤトはモモコ(小2)に聞いた。
「おりがみ買いに行ってたの。明日、チャコが幼稚園で使うからって。――その人、お兄ちゃんの恋人?」
や~ん、妹ってぜったい兄の周りに居る女の子にチェック入れるんだーー、マリは思った。
「学校でのお友だちだよ」
先輩とかいろいろ小難しい言葉は使わず、ハヤトは簡単に答えた。
「ふーん。――ハヤト兄ちゃんの妹で志武モモコです。こんにちは」
モモコも、キイロ、ミドリ(小5)同様ぺこりとマリに頭を下げた。
みんなちゃんと躾られているんだなーー、マリは感心した。
「こんにちは。私は坂野マリです」
「ほら、チャコも。ごあいさつは?」
ハヤトが頭上のチャコにうながした。
「こんにちは」
チャコがマリに言った。
手には今買ってきた折り紙の袋を持っていた。
「チャコちゃんて言うの? いくつ?」
「4つ」
チャコは指を4本出してマリに答えた。
ハヤトが何となく女子に慣れているというか、言動にやわらかさ、優しさがあるのは姉妹がたくさん――しかもみんな美人!――いるからなのかとマリは合点がいった。
そのまま6人で歩いて、志武家の前まで来た。
家の前に、大きいのと小さいのと人影が2つ。
アオイ(大1)とダイゴ(年少)が、道に面した自宅の小さな花壇に水をやっていたのだ。
「あら、お帰りなさい」
水色のエプロンをしているアオイが皆に声をかけた。
「みんなお帰り~~」
ダイゴが走り出した。
誰に駆け寄るのかと思ったらミドリだった。
ハヤトはチャコを肩車中。
キイロは自分のとハヤトのとカバンを2つ持って両手がふさがっており、モモコはマリと手をつないでいた。
スーパーの袋を提げているだけのミドリなら抱っこしてくれそうだからミドリに駆け寄ったのだ。
「ただいま、ダイゴ」
ミドリはしゃがんでダイゴを抱きとめると、頭をなでた。
「こちらは?」
アオイがマリのことを皆に問う。
「兄さんの先輩で坂野マリさん」
キイロが簡単にアオイに答えた。
「そうなんだ。弟がお世話になってます。姉のアオイです。私の次がアカネで、ハヤトはその次です」
「私、アカネさんと友達です。でもこんなにご兄弟がいらっしゃるなんて知らなくて……」
「話すと驚かれるし、説明も長くなるからいちいち言わないのよね。坂野さんもお宅こちらなの?」
アオイに聞かれてマリは思い出した。
「いけない。私、自分ちへの曲がり角通り越して来ちゃいました」
兄弟たちとのおしゃべりに夢中でマリもついうっかりしていたのであった。