103.彼女さんですか
ミドリ(小5)はスーパーのビニール袋を提げていた。
「あれ、ミドリ。買い物?」
「うん、お醤油なくなっちゃったから」
ミドリはキイロ(中2)の問いに答えた。
「はじめましてー。ハヤトとキイロの妹でミドリでーす」
ミドリもまた、さっきのキイロみたいにぺこりとマリに頭を下げた。
「あ、こ……、こんにちは。坂野マリです。びっくりしちゃった」
妹がまだいたんだ。
小学生ぐらいかな?
何を話そう?
そう、マリが考えていると、
「ところでお二人はどういうご関係ですか?」
ミドリがキイロと同じことを聞いてきた。
「あの……、サッカーの練習のお手伝いをしてもらってるの」
「そうなんですか。兄はいろんな部活に顔を出していると聞いているので、それですね。もしかしたら彼女さんかと思いました」
「ミドリ、坂野先輩に失礼だろ」
ハヤト(高1)がたしなめた。
「はあい。坂野さん、兄は学校ではどんな感じですか?」
「え、どんな感じって……」
「ミドリ、なんだか兄さんの保護者みたいだね」
今度はキイロがミドリに言う。
「志武君は……、サッカー優しく教えてくれるから、みんな大好きです」
「良かったねお兄ちゃん。お兄ちゃんのこと全部好きだって」
え? 違うよ、私じゃなくて同好会のみんながハヤト君を好きだという意味なんだけど……、マリは顔が赤くなってくるのを感じた。
「ミドリ、違うでしょ。『みんな』というのは『全部』じゃなくて『全員』。同好会の全員から兄さん好かれてるんだって」
キイロが代わりに言ってくれた。
良かった。
「あ、そういうことか。――もてもてだね、お兄ちゃん」
「なんか、話がすごく飛躍してるぞ」
「あ、あの……、ミドリちゃん」
マリがミドリに話しかけた。
「はい?」
「さっき志武君といっしょにあなたもランニングしてるって言ってたわよね。何かスポーツしているの?」
「私ですか? 小学校でミニバスを。兄も中学の時はサッカーだけど、小学校の時はミニバスをやってたんですよ。ね? お兄ちゃん」
ミドリもキイロと同様、ここではアニキと呼ばずお兄ちゃんと呼んでいる。
「そうだったな」
呼ばれ方の違いについてハヤトは特に何も言わない。
「たまに教えてもらうんです」
ハヤトからまたマリへ、ミドリは話しかけた。
「へえーー、志武君、妹さんに優しいんだね」
「ええ、まあ……」
後ろからまた別の女の子の声がした。
「アニキは優しいんだよ」
皆が振り向くと――。
手をつないだモモコ(小2)とチャコ(年中)がいた。