102.どういうご関係ですか
ハヤト(高1)の高校には女子のサッカーの同好会がある。
部活動まではいかないが、サッカー好きの女子が集まって活動しているのだ。
その同好会長の2年生坂野マリに頼まれて、ハヤトは時々練習の手伝いに行っていた。
手伝いというかコーチだ。
中学時代ハヤトがサッカーをやっていた事を買われたのである。
もちろん、いろいろな運動部の助っ人どころか、先日は演劇部の助っ人まで行ったハヤトであるから、女子サッカー同好会のコーチも快く引き受けたのであった。
その練習の帰り。
「志武君、一緒に帰ろう」
「あ、坂野先輩」
マリがハヤトに声をかけてきた。
「ありがとね、志武君のおかげで練習の質がすごく上がったわ」
「それほどでもないですよ」
「志武君、生徒会の手伝いもしてるのよね? 時々アカネに頼まれて」
マリはアカネと同級生であり友人だった。
「ええ、まあ」
「アカネと仲いい?」
「まあそりゃ、姉弟ですから」
「なんか他人行儀だなあ。敬語なんかやめてよ」
「いや、でも……」
「呼び方もさ、坂野先輩じゃなくてマリ先輩にして。後輩のコたちもみんなそう呼んでるし。なんならマリでも……」
その時、後ろから声をかけてきた者がいた。
「ハ・ヤ・ト・にい・さん!」
声をかけて振り返ると――。
ハヤトの妹キイロ(中2)だった。
「あ、キイロ。キイロも部活の帰りか?」
「妹さん?」
マリがハヤトにたずねる。
「いつも兄がお世話になっています。私、妹のキイロと申します」
キイロはぺこりとマリに頭を下げた。
「そんな……、こちらこそ志武君にはお世話に……。あ、私は坂野マリです。――志武君、妹さんもいたんだ?」
「ええ、まあ……」
ハヤトは自分が大人数の兄弟であることはいちいち言っていないので、ハヤトを知る生徒の大部分は同じ高校に通う姉アカネのことしか知らないのだ。
「ところでお二人はどういうご関係ですか?」
キイロが並んで歩きながらちょっといたずらっぽい表情で二人に聞いた。
「女子のサッカー同好会の先輩だよ。いっしょに練習させてもらってるんだ」
ハヤトが答えた。
「女子のサッカー同好会? じゃあ、周りは女の子ばっかりだね、ハヤト兄さん」
キイロは家では“アニキ”と呼んでいるのに、ここでは“ハヤト兄さん”に戻っていた。
「すてきな人いる?」
「みんなすてきだよ」
キイロとハヤトの会話を聞いて、マリは意外な感じがした。
ハヤトは女の子のことを「すてき」とか言うんだ。
ちょっと普段の様子からは想像できない。
その「みんなすてき」の中には私も入っているのかな。
マリはキイロに興味がわいた。
「キイロさんは、何か部活やってるの?」
「テニス部です。夜、ハヤト兄さんといっしょにランニングもして鍛えてるんです。ね、兄さん」
「ああ、そうだな」
後ろから別の女の子の声がした。
「それ、私もいっしょでーす」
皆が振り向くと――。
ハヤトとキイロの妹ミドリ(小5)がいた。