99.二匹のかたつむり
アオイ(大1)とダイゴ(年少)とで買い物に出た帰り。
ダイゴが道端の草むらにかたつむりを2匹見つけた。
「あ、かたつむりだ。お姉ちゃん、かたつむりがいるよ」
ダイゴに呼ばれて、アオイものぞきこんだ。
「ほんとだ。2匹いるね」
「おっきい方がお姉ちゃんで、こっちが弟かな」
こういう場合、大きい方を母親、小さい方をその子どもになぞらえる事の方が多いだろう。
だが、ダイゴは2匹のかたつむりを自分たちになぞらえてか、そう言った。
「ダイゴ、残念だけどそれは違うかな」
「どうして? じゃあ親子?」
「そうじゃなくて……、実はかたつむりってオスメスの区別がないんだって」
「え、ないの?」
「ないの。難しい言葉で雌雄同体っていうのよ」
「しゆうどうたい……。じゃあ、けっこんは?」
「結婚っていうか……、動物の場合は交尾っていうんだけど、それはするわ」
「こうび……。じゃあ、けっこんはできるんだね?」
「う~ん……、まあ、そうかな」
「オスメスの区別が無いんだったら、かたつむりはお父さんやお母さんのこと、何て呼ぶのかな?」
「そうだね、何て呼ぶんだろうね」
「何て呼ぶかは分からないけど、親はいるんだね、良かった。じゃあ、やっぱりこれ親子かな?」
ダイゴはじっとかたつむりを見つめている。
「ダイゴ」
「なあに?」
「ダイゴには、兄ちゃん姉ちゃんたちがいるからね」
「うん。――でも良かった。僕、かたつむりじゃなくて」
「どうして?」
「だってオスメスの区別が無いんでしょ。お姉ちゃんのこと何て呼べばいいか分からないもん。お兄ちゃんともお姉ちゃんとも呼べないから……、アオイちゃんかな?」
弟から名前で呼ばれてちょっと新鮮でくすぐったいアオイであった。