奥様が繊細すぎる
うちの奥様が繊細すぎます。
この我が伯爵家の若様が学院で見染めた侯爵令嬢を嫁にしたのですが、これが・・・こう扱いにくい人でして、いつも怯えてばかりなのです。
まずは朝、寝起きが悪いようでなかなか起きられない様です。
無理に起きそうとすると
「ひっ、ごめんなさい直ぐに起きます!」
と言って慌てて起き上がって転んでしまいます。
なので、私たちメイドはまずカーテンを開けて日のひかりを部屋の中に入れて、出来る限り優しく声をかけます。
我が家は上水道を屋敷の中に引いて居るので、わざわざ私たちが洗面器とお湯を持ってくる必要は無く、化粧室に御案内しております。
なのですが、最初は使い方がわからない様なのでいちいち使い方を教えておりました。
そこでも奥様は、水を出したりお湯が出るだけでいちいち「ひっ!」と悲鳴を挙げておられた様です。
これでメイド仲間の一人が神経衰弱になって辞めました。
朝食、いや食事の時も食器をナイフを鳴らしただけで
「ごめんなさい」と怯えて食事が続かないひどい時は終わってしまいます。
若様が居られる時は一口づつ食べさせれば食べてはくれますが、それが出来ない場合、若様が王都に出張して居る場合は部屋に後で持って行くしかありません。
どうやらマナーを厳しく指摘されたので、人前で食事をするのが苦手な様です。
ただでさえ偏食が酷く(肉の脂身、匂いのキツいチーズ、丸ごとの魚、食卓に上がると「ひいっ」と悲鳴をあげる。無理に口に入れると吐き出す。)食べられないものが多いのに、十分な量が摂れないから空腹で倒れてしまいます。
多少のマナー違反は良いからきちんと食べて欲しいところです。
朝食の後はスケジュールの確認の後、礼儀作法などの授業の時間となります。
ここでは教師の人柄に気をつけました。普段の物言い、教え方などそれぞれ吟味して厳選した教師を奥様にお付けしました。
しかし間違えたり課題を忘れてしまったときなど必要以上に怯えて過呼吸になってしまい授業にならないときが有ります。
そんなときは教師も交えてお茶にいたします。
ハーブティーと甘いお菓子で奥様も落ち着いて来て授業が続けられます。
若様曰く、学院での成績は優秀だったそうです。
でもいくら優秀でもこんなに怯えられて居たら教える気が無くなって行くので、教師は頻繁に変えます。
授業の後は気分転換も兼ねて庭の散歩です。
奥様は花はお好きな様です。なので庭師は細心の注意を払って、季節の花々を絶やさない様にしております。
このとき、通る道に生えて居る雑草は全て取る事、そうしないと奥様がむしるからだ。手は汚れるしドレスも汚れてしまう、そうすると奥様はパニックになり、過呼吸になり寝込んでしまいます。
そしてお茶の時間一番奥様が楽しみにしてる時間です。
奥様のお気に入りのお茶とお菓子でゆったりと過ごします。
このとき若様以外の誰かが部屋に乱入しない様に注意すること、執事や侍従達ならまだ良いが、メイドだったらパニックになります。
昔、お茶の時間にいきなり兄妹に殴りかかられたのだそうです。
お茶の後は実務作業となります。
屋敷の実務とは言っても今の段階で帳簿や領地の重要書類などは任せられないので、夕食のメニューや明日のお茶のお菓子の選定に季節の変わり目には模様替えの指示をなどをしてもらっております。
ここでも、奥様の提案に不満を言えば必要以上に怯えてしまうので出来る限り穏やかに意見する様にしております。
夕食は若様と御一緒にとられます。
二人きりで、このときだけは奥様は過呼吸やパニックを起こしません。
やはり若様と一緒に居るときが一番落ち着く様です。
お一人の時はお部屋でサンドイッチなどの軽いものをとられます。
少食でいらっしゃるのとマナーを注意されすぎて食器を使うのが嫌な様です。
そこまでマナーが悪いとは思えませんが。
入浴の後、就寝となりますが、夜中魘されて起きてしまう様なので、保温機能があるポットによく眠れる効果の有るハーブティーを寝室に置くのを忘れない様にします。
これが無いと奥様は廊下に出て屋敷中を徘徊するのです。
奥様の不安定なのは生家で虐待を受けて居たからです。
出来の悪い奥様は何をやっても笑われ、叱られ、少しでも失敗すれば折檻され、罰として役立たずは置いておけないとメイドの仕事をしろと命ぜられたそうです。
そのせいでパニックになると草むしりやドレスの裾で床を磨きます。
優秀な兄と姉と比べられていつも辛かったそうで、学院で優秀な成績を収めても細かい所を指摘されて、家族の態度は変わらなかった様です。
そして優秀なわりには怯えて居るので、学友達からは見下されてタチの悪いもの達から課題や掃除などを押し付けられて居た様です。
そんなときにで若様と出会い、初めて助けてもらったそうです。
正義感の強い若様ですから行動は早く、悪い学友達から引き離し、奥様の境遇を聞き出して、実家から引き離し、そして卒業と同時にご結婚となりました。
ここまで来たら、虐げられた御令嬢を助け出して結婚したというお話ですが・・・
若様の命令により奥様のご家族を調べて、関わって居る事業などを調べて停止させ、国王陛下の御前でご両親並びに兄妹たちを裁いていただく為の証拠集めと大変でした。
結婚も親族達からは反対の声が多かったそうですが、若様はそのものたちを説き伏せて結婚に至ったとのこと。
王都では「愛の力で苦難を乗り越えて結婚した」と語り草になって居るとか・・・
でもその過程で使用人や護衛師たち下々のものに多大な犠牲が出たと記しておきます。
しかし今だに奥様の精神は不安定で、公務はおろか子作りにも支障が出て居るので、どこか遠くの土地で落ち着くまで療養させた方が良いとお医者様は申して居られました。
ですが奥様は「努力します。」とおっしゃるばかりで、療養を断固拒否なさるのです。
とても頑固です。
何があっても若様から離れたくない様です。
しかし若様が女性と一緒に居るのを見ただけで、パニックになるのです。
例えご親族や、メイドたちであっても・・・
若様は社交界や学院で女性たちに付きまとわれた経験からご自分の御側には、男性の侍従しかつけません。
なのでほとんどは奥様の思い込みです。
こんな奥様のなさり様に若様がなぜ注意をしないのかと言うと・・・
若様は生まれてすぐにお母様を亡くされ、家庭教師や執事やメイド達によって育てられました。
旦那様は忙しいのか亡き奥方を思い出してしまうからか、ほとんど若様に関わって来ずほぼ他人任せでした。
こうしてお寂しい思いをして来た若様でしたが、学院に入ったら同世代のもの達、今の皇太子殿下と宰相閣下と将軍閣下と出会い充実した学院生活を送られて来ました。
ですので、目上のものには従わずに議会の重鎮達を「老害ども」と蔑み、同世代のもの達と同盟を結んでこの国に新しい風を吹かせると政治活動を行なっております。
最近は政治基盤作りに忙しくお屋敷に帰ってこられません。
その代わりといっては手紙とちょっとした贈り物を毎日の様に送って居られる様です。
奥様に惹かれたのは、お小さい頃とてもお寂しかったからでしょうと古参のメイド長が申しておりました。
不安定で自分がいないと何も出来ないような自分だけに頼ってくれる方を選んだのだろうと、いままで言い寄って来た様な我儘な女達とは違い主張せずに大人しく従順な奥様に・・・
しかしこのままで本当に良いんでしょうか?
若様は旦那様つまり若様のお父様から、早く子供をと命ぜられておりますが、仕事に忙殺されて居るからと突っぱねております。
本当は奥様の状態が落ち着くのを待って居る様です。
若様は子供好きではないので、子供を直ぐに作らない様です。
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最近の奥様はとても大人しいです。
若様からの手紙が途切れる様になったからでしょう。
七日前に届いたのが最後です。
朝起きて、夜寝るまで若様の名前を呟くばかりで何も勉強もお屋敷の雑務もお散歩も何もかも、何もせずに一日中ぼんやりとして居られます。
奥様が動かないので屋敷の業務はかえって問題なく進み、私どもの負担は減ったのです。
新聞では若様率いる改革派が古参派を倒そうと躍起になって居るそうで、軍隊まで動くんじゃないかと噂になっております。
若様達は国を新しくしようと革命を起こそうとして居る様です。
お屋敷は大丈夫でしょうか?
そうこうして居るうちに旦那様が奥様のお見舞いに来られました。
と見せかけて本当は若様の同行を探りに来たんでしょう。
流石に姿を見せないといけませんので、奥様が応接室で対応することになりました。
軽く化粧をし、ゆったりとしたドレスを纏い旦那様とお茶をしながら歓談しておりましたが、旦那様が帰られた途端、奥様は泣き出しました。
「あの人が!あの人が!あの人が!浮気をして居るって!!」
「旦那様が!『あいつは新しい女に夢中になって居るだろうから家に帰ってこないんだろうさ』と仰って居た!!!!!」
「あの人に捨てられたら私!!!」
「どうしよう!どうしよう!どうしよう!どうしよう!どうしよう!どうしよう!どうすれば!どうすれば!どうすれば!どうすれば!どうすれば!どうすれば!どうすれば!どうすれば!いいの!!!?」
と過呼吸を起こされ、大変でした。
こんな事も有ろうかとお医者様を待機させて置いて正解でした。
ここで旦那様の仰る「新しい女」と言うのは革命と新しい政策でしょう。
夢中になって居るものを異性に例えるのはよくあることです。
それを奥様は、そのまま言葉通りに受け止めてしまい過呼吸を起こされたのでしょう。
旦那様はわざとこんな物言いをしたのでしょう。
若様のご結婚には反対されておりましたから、不安定な奥様が気に入らない様です。
若様曰く
「父は私のやる事なす事全てが気に食わないのだ」
と
いちいち過呼吸を起こす奥様が面倒ごとから逃げて居る様に見えるんでしょうね。
旦那様に報告するのと同時に奥様に手紙を書いていただきました。
書いていただくのに
「私からなんて恥知らずな女だと思わないかしら」とか
「字が崩れたら見っともない」
「御義父様とのこと書いてバレたらどうしよう」
などとなかなか書き上がりませんでした。
奥様が自分から手紙を出した事はほとんど有りません。
ようやく描き終えた手紙を執事さんの報告書と共に届けてもらいました。
しかし手紙を出した翌日に王都で暴動が起きたとの知らせが入りました。
奥様は知らせを聞いた途端気絶してしまいました。
正直過呼吸起こさずに気絶してくれたんで、手間が省けました。
とにかく正確な情報が欲しかったので、お屋敷から使いを出して王都に行かせました。
私どもはとにかく主人が帰るまでお屋敷を守らなければなりません。
情報収集や立てこもる準備で皆大忙しです。
なので皆奥様にかまって居る暇は有りませんでした。
流石に新人メイドの一人が看病としてついて居ましたが、如何せん人手が一人でも欲しかったので、つい奥様を一人きりにしてしまいました。
その隙に奥様は王都に行ってしまいました。
驚きました。
私どもの知って居る奥様は、いつも怯えて、過呼吸を起こし寝込んでしまう弱々しい方だったんです。
奥様を探しに近所を探索したら王都行きの辻馬車に乗ったと情報を掴んで使用人一同は困り果てるどころか喜びました。
奥様こんな行動力あったんですね!
見直しました!
旦那様を助けに行ったんですね!
と皆口々に奥様を褒めそやしました。
でも違ったんですよ。
奥様はあの女はとんでもないことをしたんです。
ここからは聞いた話になります。
奥様は私どもの目を盗んで、お屋敷を出て辻馬車に乗り王都まで向かいました。
王都について奥様は学院時代の御学友の元へ行き、王城へと向かったのです。
そこで若様と再会したそうですが、暴動の処理で忙しくて忙しくて奥様との時間が取れなかったそうなんです。
そこで奥様は寂しさのあまりなのか、学院時代の友人達を会えたのが嬉しかったのか、多数のご友人と寝たそうです。
要は不倫です不倫!どうも学院時代では奥様は儚くて守ってやりたくなる感じでモテたそうです。
ですので、皆さんいつ死ぬかもわからぬ緊張感がそうさせたのでしょうか?御学友達、現宰相閣下、将軍、近衛団長さらには王太子殿下と捲る捲る夜毎に寝たそうです。
若様が知ったのは奥様が王城にいらしてから、14日たった頃でした。
「この革命が終わったら離婚だ!!」
と流石の若様も大激怒だったそうで、奥様を王城から追い出そうとしましたが、外の暴徒がうろつく中に追い出すのはダメだと皆様から言われて王城の一室に閉じ込めたそうです。
そして、暴動が収まって来たときに王城が火事になったのです!
火元は、若様が在留して居た部屋周辺からだそうで、乾燥して居る季節だった事も王城が老朽化して居て燃えやすい建材ばかりだった事もあり、あっという間に燃え広がり、王太子殿下を含む多数の方々が焼死したそうです。
もちろん若様と奥様もその中に入っておりました。
正直王城不倫の挙句にで放火なんてとんでもないことをしてくれたなと思いましたが、焼身自殺に若様を巻き込んだんじゃないかと考えております。
不倫で離婚なんてあの人のプライドが許さなかったのでしょう。
あの人は貴族らしく気が弱い割にはプライドが高かったですから
見つかったご遺体は奥様と若様ご一緒だったからです。
若様が眠って居る隙に部屋中に油を撒いて火を放ったのでしょう。
無駄に行動力はありましたから同じ部屋で一緒に亡くなったようです。
もう奥様のことはこれで全部です。
これだけやらかしたので、お屋敷は解体されました。
あたらしい仕事を探すのに専念したいのでこれで失礼致します。
もう話したくないです。
モラハラで精神擦り潰れて居て、色々限界なときに優しくされるとすぐにコロリと行ってしまうのです。




