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04 初デート

 長い1日が終わった。迎えが来るのを中庭の草をぶちぶち抜きながら待っている。

 今日も愛馬のキャサリンが迎えにきてくれる。休日はにんじんを共に食べ、飽きるまで乗りまわしている。キャサリンも楽しそうに語りかけてくる。馬とも会話できるなんて、わたしには才がありすぎる。もちろんヒヒーン語である。


「ここにいたのか」


 聞いたことのある声。もしや時の人、生徒会長では…?そろりと振り向くとやはり居たのはクリスティアンだった。


「え、ええ。どうかなさいましたか?」


 普段は関わりがないのに、1日で2回も会うなんて珍しい。会うのは休日にある月1のお茶会の日だけだ。


「いっしょに帰ろう」

「いえ、そろそろ迎えも来ますし…」


 これ以上目立ちたくない。行きも帰りも一緒だなんて次はどんな噂が立つのやら。


「わかった」


 


「なぜうちの馬車に乗っておられるのですか」


 わかったってさっき言ってたよね、この人。なんでもないかのような表情、正確にはいつもの無表情で、わたしの向かいに座っている。幻覚だろうか?

 幻覚みるくらいなら、いっそのことお肉食べ放題の方が良かった。世界中のお肉があったら最高だ。食べ過ぎてお腹破裂するかもしれない。


「夢みたい…」

「夢みたいで嬉しいってこと?僕もだ」

「…はっ!」


 誤解させるようなことを言ってしまった。口は災いの元だ。クリスティアンは無表情なのに、目が、目が、すんごぉいきらきらしてる。美形すぎる顔で感情を出されると流石のわたしでもコロッといきそうだ。

 今更「ちがいますよ、お肉の話ですよ」なんて言いづらい。ここは笑って誤魔化そう。


「次のやすみ出かけよう」

「お茶会の日とは別でですか?」

「ああ」


 優しい目をしたクリスティアンは、わたしの婚約指輪をみながら頷いた。ほんと綺麗だなあ。というか、いつ指のサイズ測った?手を握られた覚えもないし。お父様はそんなこと知らないだろうし。お母様が教えたのかしら?


「…という予定だ」

「え?わ、わかりました」


 なーんも聞いてなかった。知ったフリしてしまった。聞いてなかったから、びっくりドキドキサプライズ、で、でで、デートになってしまった。


 ***


「いたっ」


 いててて。尾てい骨が地面に突き刺さったんじゃなかろうか。わたしは今人目のないところに呼び出され、乗馬で鍛えた体感があるにも関わらず、押されたくらいで尻餅をついてしまった。


「地味なくせにクリスティアン様の婚約者ですって?エミーリエ様の方がお似合いよ!返しなさい泥棒猫!」

「そうよそうよ!」

「うっ…みんなぁ、ありがとぉ」


 エミーリエとその取り巻きといったところだろう。立つ暇もなくわたしを囲んで暴言を浴びせてきた。要は婚約破棄しろと。そんな簡単に婚約破棄出来るわけがない。


「これ以上辛い目に遭いたくないなら早くすることね!」


 そう言い残してエミーリエと取り巻きたちは後にした。わたしはため息が出た。分かりきっていたことだ。卒業まで平和がよかったが、あと少し辛抱すれば良い。地面を見てると線になって歩いてる蟻の列を見つけた。懸命に何かを運んでいた。


「大丈夫?」


 見上げると同級生のマヌエルが居た。眼鏡仲間の彼はわたしを立たせてくれた。彼の手は大きい。猫背気味だが背も高かった。


「ありがとう。大丈夫だよ」

「手、怪我してるよ。保健室に行こう」


 マヌエルはそう言って優しく手を引いた。


 

 

「いたーい」

「ごめん、沁みるよね」


 消毒液を綿でポンポンとした後は包帯を巻いてくれた。彼は面倒見のいい紳士である。ずり落ちそうな眼鏡を直しながらマヌエルは心配そうにしていた。


「手当してくれてありがとう。さっきのことは大丈夫だから気にしないで」

「でも、生徒会長に言ったらどうにかしてくれるんじゃない?」

「そうかもしれないけど言わないよ。マヌエルくんも言わないでね」


 クリスティアンを巻き込んだトラブルなんかごめんだ。卒業間近で皆の記憶に残るような変な思い出も作りたくはない。


「もっとはやくに…」

「なんて?」

「なんでもないよ」


 そう言ったマヌエルはやはり心配そうにしていた。大丈夫こんなに強いんだよという気持ちで力こぶをつくる。他の令嬢に比べれば、力持ちだ。

 

「なにそれ」


 心配そうだった表情が明るくなった。筋肉は人を笑顔に変えることができる。ムキムキを極めたら世界中を笑顔に出来るかもしれない。筋肉はそんな可能性を秘めている。


 ***


 物を隠されたり足を引っ掛けられたり、わたしにしか聞こえないくらいの声量で悪口を言われたりされながら、約束のデートの日を迎えた。

 いじめられるのはなんともないが、ジャネットが巻き込まれないように連むのをやめた。たわいもない会話がなくて寂しい。今唯一の癒しといえばキャサリンとの乗馬だ。今日時間があれば乗馬服も見たい。あと制服の予備。未遂で終わったが切り刻まれそうになった。刻むのは玉ねぎだけにして欲しい。それをハンバーグの材料にするんだ。


「パンで挟んでハンバーガーにしてもいいなあ」


 考えるだけで涎が出そうだ。


「おなか空いたのか?」


 クリスティアンは持っていた飴を差し出している。朝からお肉を食べてきたから空いてはいない。しかし飴はもらう。舐めてみると、いちごの味がした。

 馬車が揺れるのをやめ、着きましたよと御者の声がした。どうやら劇場に着いたようだ。それからクリスティアンにエスコートされながら劇場の席に着いた。劇の内容は魔王討伐と聖女の恋の話だった。涙もろいわたしはもちろん泣いた。


「ごはん食べるか?」

「ええ、そうしましょう」


 気づけばお腹の鳴る時間だ。学園で話題のレストランに着いた。チラホラと見かけたことのある顔もあった。

 クリスティアンはスマートにメニューをみてスマートに2人分注文していた。

 暫くして料理が運ばれてきた。クリスティアンのチョイスはバッチリで、わたしたちはコース料理に舌鼓を打った。


 


 芸術で感性を満たされ料理でお腹も満たされ、満足度の高い1日だった。わたしの脳内ではかの有名な帰る時の曲が流れていた。


「次いくぞ」


 今度は馬車に乗らないようだ。手を引かれながら歩いてると魔道具屋に着いた。キッチン用品から戦闘用までなんでも取り揃えてある店だ。光るペンでも買ってくれるのだろうか?


「女性向けの護身用のネックレスをみせてくれ」

「かしこまりました」


 赤、橙色、黄色、黄緑、青、紫、各色の石が装飾された計6つのネックレスがずらっと並べられた。護身用にもランクがあり事故、人災、天災などに合わせてランク付けされているみたい。どうやら出されたネックレスの護身ランクは高いようで、空から槍が降ってきても守れるそうだ。出されたショーケースを見てみるとわたしのお小遣いでは買えないような値段をしていた。


「これにする」

「かしこまりました」

 

 婚約者は黄緑色のネックレスを選んでいた。婚約者のお母様に贈るつもりだろうか。お母様は婚約者と同じ萌黄色の目をしている。

 綺麗に包装されたネックレスを持ち、そろそろ帰るようだ。わたしは治癒力を高める効果のあるブレスレットを自分用に購入した。女性用のカラーが品薄で、その中から人気のピンク色の石がついたブレスレットを選んだ。ピンクを選んだ理由はもちろんステーキはミディアムレアが好きだからだ。

 クリスティアンも真似して男性用のブレスレットを購入していた。形は同じで石の色は赤だった。


 


 買い物はアクセサリーのみだったようだ。他に行きたいところはないか?と聞かれ服屋で乗馬服と制服の予備を注文した。そして、これまた学生に人気のカフェで休憩することになった。やはり学園で見たことある顔がチラホラいた。こちらをみて驚いた様子だった。

 学生に人気の店とはいえ、こんなに学園の生徒がいるとは思っても見なかった。


「美味いな」


 ケーキや焼き菓子を頼んだクリスティアンは満足げだった。ティーカップを持つ姿はとても絵になる。美味しそう。


「なんだ?」

「いえ…」


 ガン見していたのがバレた。この絵を描いて売ったら高値がつくだろうなんて考えていた。わたしには絵の才能もあるのだ。幼少期からずっとお父様に褒められてきた。ジャネットからも「独創的で個性のある絵だわ」と絶賛だった。


「美味しいですね」

「ああ」


 会話も月1のお茶会並みに静かだ。周りを見渡すと何人かと目が合い、全員から目を逸らされた。なんだか落ち着かない。コソコソと話し声が聞こえる。


「あの人たちって…」「うんあのカップルだよね」「あれ、ブレスレットお揃いじゃない?」「えっ本当だ」「「本当に恋人同士なんだ」」


 …どうやらわたしたちは注目を浴びている。ブレスレットは個人で購入したって言いにいった方がいいだろうか。クリスティアンを見てみると気にしてない様子だ。


「僕に見惚れた?」

「ブブーッ」


 どうやら見過ぎだったようだ。クスッと色気のある微笑みをしたクリスティアンはこちらをみて楽しんでいる。心臓に悪い表情だ。なにしても美形なんだから無表情でいて欲しい。


「ご、ごめんなさい」

「気にするな」


 そろそろ帰ろうということになり、カフェで焼き菓子のお土産を買い帰路についた。



 馬車の中では婚約発表パーティの日とは打って変わって、静かだった。普段はこうなのだ。あの日がおかしかっただけである。でも、ちょっと寂しさを感じるような気がしなくもない。なんなら、ちょっと期待してたかもしれない。ああ、なんでなのわたし。なんで、ちょっと破廉恥なこと期待してたの。

 頭を掴んで振り回していたら、クリスティアンは外を眺めていた。


 馬車を降りたら引き止められた。なんだ?接吻でもするつもりか?と一瞬でも思った自分を殴りたい。クリスティアンは今日買ってたネックレスを手にしていた。


「つけてやる」


 首を差し出せと言われ……そんな物騒には言われてない、後ろを向けと言われて素直に従う。首を触られるだけでドキドキした。わたしったらクリスティアンのこと意識してる。クリスティアンは苦戦しながらもネックレスをつけてくれた。頭下げてたのキツかった。首をまわすとボキボキ鳴ってスカッとした。クリスティアンはどん引いていた。


「貰っていいんですか?」

「ミアのために買った」


 こんな?お高いものを?わたしのために?

 驚いてクリスティアンを見ていると、髪の毛を整えて、おでこにキスをしてきた。キス魔か。

 ボンっと真っ赤な顔になったわたしを見て満足したのか、婚約者は微かに口角をあげて帰っていった。

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